水鳥類の飼育は大変簡単で、鶏を飼うのと同様です。人工孵化の鳥は人に良く馴れますが、野外捕獲のものでも直ぐ馴れて人の手から餌を摂るものもあり、また、中々馴れず臆病なものもあり個体差があります。
しかし、繁殖となりますと一般に水鳥は束縛を受けた地域での繁殖を好まず余程大きい飼育場で飼っても、野外捕獲の鳥は産卵育雛をしないものです。デラクール博士の話では、野外捕獲のアオ雁は19年目にやっと産卵をしたそうで、現在西ヨーロッパや北米で飼って繁殖に成功しているアオ雁は此の系統のものだそうです。
しかし、人工孵化によって得た鳥ならば、その両親が野外捕獲のものであっても、また、野外採取の卵から得たものであっても繁殖は生後3年目頃から可能になります。
従って、繁殖が目的の人は人間が孵化させた雛とか鳥を分けて貰わなければなりません。もし、野外捕獲の鳥を持ってする場合は余程条件が整っていないと早急に産卵する事は期待できません。
概していえば、北半球の鳥が繁殖が最も困難で、熱帯から南半球の鳥の方が繁殖は容易だということは言えます。水鳥の繁殖場には葦の藪、背の高い草を沢山作っておく必要があります。
水鳥を飼ってみたいが、これには広い池を用意しなければいけないからと考えがちですが、実際はそれとは反対で、一坪ほどの小さな池があれば健康に育て、又繁殖も可能なのです。
英国の水鳥の専門家、ジョンソンとペインは水鳥の飼育者に与える黄金律だと称し、次の二原則を挙げています。
●あなたが水鳥に餌をやる為か、或いはその側を単に歩くだけの場合でも、同じ呼び方と声の調子で何時も水鳥に話す事
●急いだり、慌てない事。水鳥の側を歩く時は何時でも静かで、悠々と行動する事。水鳥は大変控えめで、且つ神経質な動物だから…
当方は孵卵器で孵化させたマガモを飼育、または負傷した水鳥等も飼養しておりますが、鳥に近づく時はいつも名前を読んだり、同じ口調での声掛けをしていますが、やはり、何というのでしょうか?声掛けを繰り返すうちに警戒心も徐々に和らいでいる感じを実感します。
水鳥は強風を嫌います。水辺にキヌヤナギとか、アカシヤの樹を植えて風防ぎとします。もちろん、葦の藪もおすすめです。水鳥は密閉禽舎で飼う事は少なく、開放的な処でかいます。
此れが為に、飼育者は絶えず外敵に対する注意と普段から外敵が侵入しないように注意しておかなけれななりません。池水が氷結し、積雪のある寒い地方では、鳥は足に霜傷を起こしますから、特に雁類では藁を敷いた小屋を水辺に作っておきます。
外敵については、中でもネズミは最後の一匹まで駆除するべく、また、大概の外敵は水中に入れないのですが、イタチやテンはスワンや雁等の大きい鳥にまで攻撃を加えます。猫も大変厄介で、老若の鴨類が殺されます。
此れは水中へは入れませんし、また金網をよじ登ることも出来ませんが、金網を支える柱や特に木製の場合は柱を登って中へ入ります。柱には鉄状網を張って対策します。
最後にバンもまた大敵です。前記のジョンソンとペインの語る処によると、この鳥は鴨類の餌を取って食べる以外、時に成鳥を殺す事があり、またバンのペアを同じ池で水鳥と営巣させておきますと自分の巣の近くの鴨の雛を全部殺してしまうそうです。この二氏はアメリカオシドリについて此れを経験したそうです。
水鳥類は羽の色彩の美しさにおいては、雉類に一歩譲ようですが、雉類は人を恐れて近寄らないのに比べて水鳥類は野外捕獲の鳥でも驚くほど早く人に馴れて池を泳ぎ廻り、毎年産卵育雛を繰り返し、しかも雉類より長年月にわたり産卵いたします。水中を泳ぐ容姿は何物にも増して魅力的なものです。
飼い方は雉類よりも容易で、翼を切れば非常に高価な金網の禽舎を作る必要がなく、高さ1mの金網仕切りをするだけで飼う事が出来る利点があります。二、三の特別の雁、鴨、スワンを除いては、水鳥類は多数羽混種で一つの池の中で飼う事ができるのも特徴です。
雉類は限定された広さの禽舎で飼わなければならないのに比べて、水鳥は庭園に、また果樹園等に自由に放し飼い出来て、思う存分その美しさを、またその面白い動作を美しいバックの風景と一緒に楽しむことができるのも魅力の一つです。
ここで、水鳥と言いますのは鴨と雁とスワンを総称しております。水鳥は藪がある事、外敵の心配がないこと、静かで平和な環境、此れだけの条件があれば産卵育雛をします。
秋から冬にかけて時に彼らのディスプレーが見られますが、1月が終わりに近づき日が長くなるにつれて交尾もみられます。大概の鴨類は4月初めには巣材を探したり、また卵を産みます。
スワン、雁、鴨等は、葦や草、藻の上にまた岩の穴、樹の根や幹、藪等に産卵いたします。スワン、雁には前面と底が開いて、卵は土の上に産むように囲いを作っておきます。巣材としては、自分自身の綿毛以外にはあまり使用しません。勿論スワンとか二、三の雁だけには沢山、巣材の藁とか葦が必要です。
オシドリ、ツクシガモ、ホオジロガモ等は一方にのみ出入り口のある犬小屋のような箱、樽、排水管を巣箱として樹の幹に取り付けておくのですが、翼を切った鳥ですと椅子等を出入り口に掛けておく必要があります。
巣箱の高さも前者は高く吊るし、後者の場合は70~80cmの高さに致します。しかし、コガモ、オナガガモ、オカヨシガモ、ハシビロガモ等の地面に産卵する鳥では、実にうまく卵を地面の窪みに枯れ葉や草で隠しますから飼育者は抱卵を始めるまでに発見が困難です。鴨類では、大抵夜明けから、朝10時までの間に産卵します。
雉類では、人間が集卵し人工孵化するのが普通です。しかし、水鳥ではそれらは寧ろ稀で、多くの場合自家抱卵と育雛が一番手数が掛らず能率的です。しかし、産卵毎に集卵すれば水鳥は3クラッチ産卵いたしますから、自家抱卵では産卵数が減って損をします。そこでやはり集卵して、仮母に抱卵させるのが良いでしょう。
親鳥が自分で抱卵して孵化した場合、雛が歩行できるようになり次第、母鳥は此の雛を当てもなくあちらこちらへと連れ廻り、その為に雛は餌を食べる暇もなく、疲れて死ぬ事になります。
これは多分、母鳥は他の成鳥が沢山居る事が気がかりの為だろうと思いますが、孵化数日前に卵を母親から取り去り、此の卵を孵卵器に入れて孵化し、人工育雛をします。この場合の孵卵器は平面孵卵器で十分間に合います。
多数羽の孵化を同時に行う繁殖家の多くは此の方法を採用しており、最後まで母鳥に孵化を委ねるようなことはしません。
スワン、雁、ツクシ雁等は孵化育雛を全部親鳥にさせるのが良いでしょう。特にスワンやツクシ雁等は体が大きく強い鳥ですから、自分で自分の雛を外敵から守る能力を持っています。
雁、鴨類ですと雛を外敵から守る為に、雛を金網の中に入れて網の目の穴を雛は通過できるが、親鳥は通過できないものにします。この金網の中に雛用の餌を水面の高さに置きます。最初の二回目のクラッチの卵は取り去り、人工孵化して最後の第3クラッチの卵だけを親鳥に抱卵育雛させるのが大変良い方法です。
また、卵を巣から取り去る場合は、全卵を取り去っては、親鳥は巣を立つ恐れがありますから、産卵が終わるまでは3~4個の卵を巣に残しておくとか、偽卵を使用します。
水鳥卵の孵卵器による孵化は成績が良くありません。したがって多くの場合、バンタム、矮鶏等の仮母を使用します。水鳥の繁殖者は沢山の仮母を養っておく必要があります。
孵化した雛を育てるには、最初から水に入れる場合と、2週間位あとになって初めて水浴びをさせる場合があります。前者は大きい鳥の場合に行いますが、後者は、小さい鳥、雁、水面鴨の場合に行います。
孵化した雛は雉類ならば、大概は簡単に餌付きますが、水鳥の場合は簡単に餌付かない場合が多いのです。飼育者は最初の数日、実際に餌付いているかどうか確かめておかないと全部の雛を死なす事があります。
餌付かない時は、強制して口へ餌を入れてやるのも一つの方法です。また嘴形のものを電気モーターで動かし、餌の中をかき廻すと、大概の鳥は餌付くものです。また、消毒したウジ、ミルワーム等動くものを餌に混ぜるとか、仮母に一緒に数回餌をついばませるとかの方法があります。
餌付け飼料としては固く煮た卵黄、ウジ、ミルワーム、細切りのレタス、白菜、緑藻ですが、潜水鴨類にはミンチ肉の煮たものやドッグフードも良いです。しかし、良質のチックフードを最初から与えるだけでも成功する事もあります。
凡てが順調でしたら雛は驚くほど早く成長し、約2ヶ月で大きさは成鳥に近づきます。あまり早く成長しすぎると関節に異常を起こし、ビッコになったり、また翼を垂らしたりとして廃鳥となってしまいます。
水鳥は特に雁の場合に良くこのような現象が起こります。此れを防ぐには生後1週間は蛋白質含有量の多い餌を与えますが、以後はできるだけ早く、緑餌に切り替えます。
スワンの場合も緑餌をたっぷりと与えるのが秘訣です。
水鳥の幼鳥を育てる場所は太陽が良く当たり、良く乾燥した丘、または成鳥になる迄は雨除けの覆いをしておくのが安全です。雛は生後30時間あるいは数日の内には羽に防水力ができます。防水力が出来ていない雛を水に入れると体温が下がり死にますから、飼育者は初めのうちは此れを監視していなけれないけません。
雛に与える餌は、非常に浅い皿に水浸しで与えます。スワンや雁は30年或いはそれ以上に亘って産卵いたします。鴨は15年~20年間は産卵しますから、雉類よりもずっと産卵期が長いのです。