鉛中毒・症状
前述の如く総ての鉛化合物は局所の刺戟作用があり、吸収されると神経中枢を刺戟して横紋筋を麻痺します。
久しい期間に亘って鉛を吸収すると重要な器官の結締織を増殖し、これと同時に筋萎縮を招きます。
家畜中最も鋭敏なものは、反芻獣特に牛属で自然中毒も多い。而して鉛中毒を急性と慢性に分ける。
(1)急性中毒
最も重要な局所変状は嘔吐、絞扼の感、激しい流涎、疝痛、便秘、あるいは血便があり、鼓脹、食欲の減少、泌乳の減少、排便の稀少、視力の喪失などがあります。
一般症状としては痙攣、搐搦、関節の強硬、牙関緊急、癲癇様発作、興奮、盲進、舞踏様発作を見、牛は更に狂暴を伴います。
以上の興奮期に次いで麻痺期に入り、衰弱、眩暈、嗜眠、後軀、舌および頬部の筋麻痺、次で一般麻痺の後昏睡に陥ります。
脈搏は非常に強く時には鋼線に触れたような感じがあり、その数は増加し時には減少します。露出粘膜は始め潮紅し後に汚穢灰白となります。
呼吸は困難で疾速する。妊娠時には屢々流産を起すことがあります。
赤血球変化は比較的早期に現れ、先ず減少を来し同時にウロビリンの増加を来す他、特有所見として赤血球内の塩基性嗜好顆粒の出現と多染性を見る。
経過は1日乃至数週に亘り、且つ久しく筋麻痺を残すものがあります。
砒酸鉛中毒牛の主徴は次の通りです。
摂取後の翌日から歩行蹌踉となり水射様悪臭粘液下痢があり、胃運動が多く、肺充血の徴を示し、次で心臓衰弱、呼吸困難、全身痙攣を起し斃死しました。
(2)慢性中毒
牛における慢性中毒の症状は栄養不良、進行性痩削と高度の衰弱で、その他往々発生する症状は腸神経節の周囲における結締織増殖に基く疝痛発作、運動障害、麻痺並びに精神の興奮で、最後の症状は脳における結締織増殖に原因し、時には癲癇様の発作を伴います。
皮膚には強い瘙痒の感や膿疱性発疹を見、時には弱視および黒内障や種々の性質の運動麻痺があります。口腔粘膜は潰瘍性炎症を発し、これと同時に気管枝カタールを併発するのが普通です。
その他鉛内用のために習慣性流産若しくは不妊を招く場合もあります。
馬の慢性中毒は牛と異り、多くは著しい喘息と気管枝水泡音を生じ使役に堪えなくなります。但し栄養障害および痙攣などは欠く。
この鉛毒呼吸困難は鉛鉱地方や鉛砂地上で働く馬に生ずるもので、通常の気管枝水泡音とは次の点で異なります。即ちこの呼吸困難は運動を中止しても直ちに静止せず、却て増加することと、尚一層運動を続け気管狭窄音を発するに至ると消失することが特異です。
而して剖見上、喉頭筋組織に萎縮あることも特性です。