鉱物毒中毒 ~ 砒酸系のもの・砒酸鉛


砒酸鉛 Lead arsenate PbHAsO₄(毒物)



本剤は植物に対する薬害が少く各種の害虫に効くこと竝に物理的性質が理想に近いことなどで広く使用され毒剤中の第一位を占めるものです。


これは砒酸H₃AsO₄と鉛Pbの化合物で酸性塩、中性塩および塩基塩の三つがありますが、農薬としては酸性砒酸鉛がふつうで工業的には硝酸を触媒として酸化鉛と砒酸とを反応させるのが最もよい。


これは製造工程で中性乃至塩基性砒酸の中間物が生成したとしても、硝酸の作用を受けて全部醋性砒酸鉛になるからです。


酸性砒酸鉛は白色板状の微結晶または無定形粉末で小麦粉その他の食品と誤り人畜の中毒を起す虞があるため群青、絹青あるいはベンガラ、絹赤で着色され青白色または赤色を呈します。


その標準規格は全砒素AsO₅として32%以上、水溶性砒素0.5%以下、鉛PbO62%以上で砒酸鉛中最も殺虫力の強いものです。


純粋な酸性砒酸は水に極めて溶け難い。また稍粘性を有しそのまま撒布しても強い被覆性と固着性があるから噴霧、撒布用に供されます。


本剤は炭酸ガスに対し殆ど作用されないので、長時間空気中に放置しても変質しない性質があります。


砒酸鉛のアルカリに対する変化は稀薄水酸化ナトリウム溶液0.05Nと酸性砒酸鉛の反応では次のように砒酸ナトリウムを溶出し、それ自身は塩基性砒酸鉛Pb₅OH(AsO₄)に変化します。

5PbHAsO₄ + 6NaOH = Pb₅OH(AsO₄)₃ + 2Na₃AsO₄ + 5H₂O



炭酸ナトリウムの稀薄溶液0.5N以下は容易に作用し、全砒酸の42~44%を溶出せしめ酸性砒酸鉛はPb₇CO₃(AsO₄)₄なる化合物に変化します。


酸を作用させると塩酸のように砒酸塩の塩化物を生成するものもありますが、一般に次の通り酸の鉛塩と水溶性砒酸とに分解します。

PbHAsO₄ + 2HA ⇄ PbA₂ + H₃AsO₄



塩類の作用はその種類と性質によって異なりますが、加水分解によってアルカリ性を呈する塩類では比較的多量の砒酸を溶出し、食塩水では次のように塩化砒酸鉛となり砒酸一ナトリウムおよび砒酸を溶出します。

5PbHAsO₄ + NaCl ⇄ Pb₃Cl(AsO₄)₃ + NaHAsO₄ + 3H₃AsO₄



以上の通り酸性砒酸鉛を水溶性に変化する能力はアルカリ類が最も大で酸類はこれに次ぎ、中性塩類は種類によりかなり差があります。


故に砒酸塩は嚥下によって消化管に入り加水分解乃至体内のアルカリ、酸類と反応して水溶性砒酸塩を生じ組織中に吸収されて中毒を起します。


砒酸鉛は各作物に使用されますが主なものの使用期間は梨4~7月、柿6~8月、ブドウ5~7月、苹果5~8月、漬菜9~11月、甘藷9~10月で、その濃度は配合によりかなりの差がありますが、水1石(182ℓ)に対し450~900gです。


今規格品の砒素総量32%とすれば、溶液1ℓに対し0.791~1.582gとなります。また鉛62%とすれば同様1ℓ当り1.533~3.066gです。


なお本剤には砒酸ニコチン、除虫菊、デリス等の植物毒竝に生石灰を混用する場合があります。また本剤使用後の植物に対する残留砒素量は相当問題があり果実、蔬菜で収穫の近い場合あるいは果皮をも食べる果実、生育期間の短いものには残留量多く中毒の危険があるとされます。


したがって本剤使用後の作物を飼料とする場合は相当期間経過しなければ家畜の中毒を起す虞があります。


作物に対する砒素の除去法は25℃位の1~3%(容量)塩酸溶液を攪拌しながら1分以内浸漬洗滌し後よく水洗いするのです。

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キジと水鳥 仲田幸男
キジと水鳥 仲田幸男 昭和46年12月20日 ASIN: B000JA2ICE 泰文館 (1971)
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