大正5年(1916)農林省がスコットランドよりアバディーン・アンガスの雄1頭、雌2頭を輸入し、当時の元農林省畜産試験場中国支場(広島県比婆郡七塚原)にけい養しました。
その和牛との一代雑種の雄1頭が大正9年(1920)に山口県阿武郡に貸付けられました。そしてそこで和牛と交配して作出されたのが現在の無角和種です。
大正12年(1923)に標準体型も作られ、同13年(1924)登録も開始されました。大正15年(1926)から昭和の初めにかけて、一時不評でしたが漸次真価が認められました。
昭和5年(1930)、山口県はイギリスから純粋のアバディーン・アンガスの雄1頭を輸入し、登録規程の大改正も行って、無角防長種の造成に努力しました。
昭和19年(1944)以来、1品種として認められ、無角和種といわれ現在、登録は全国和牛登録協会でおこなっています。
無角和種の外観
毛色は黒で、黒毛和種より少し黒味がちです。また、完全無角。
無角性は有角性に対し、不完全優性ですから、以前には不完全な無角のものがかなりおりました。すなわち、小さな柔らかい角鞘だけを有するようなものがみられたが、現在はそのようなものはみられなくなりました。
体全体の輪郭が丸みを帯び、体幅にとみ、腿の厚いのが目立ちます。
下膁部がよく充実し、体下線がまっすぐで、黒毛和種に比べれば、かなり肉用型に傾いています。肢の管は、いくぶん太めです。
被毛の質は黒毛和種に比べれば、あらい感があります。また、顔の形は短く幅広い。
成牛の標準は、体高は雌、125cm、雄137cmで黒毛和種と同様です。しかし体重は、雌500kg、雄800kgで黒毛和種より大です。
能力
早熟早肥で、枝肉歩留は高い。飼料の利用性にとみ、ことに粗悪な飼料を、よく利用するといわれています。
去勢雄子牛を若令肥育した場合に、体重450kgに達する月令が約16か月で、黒毛和種よりは約2か月早い。ただし肉繊維は、黒毛和種より少しあらいといわれています。
また、役用能力は、黒毛和種や褐毛和種に比べて若干劣るといわれています。
機械化の為、役利用の少なくなった本邦の農家の飼う肉用牛として注目されています。妊娠期間は277.4日で、黒毛和種より約1週間短い。
生後16か月で初種付される場合も、かなりあります。
分布
現在、山口県萩市および阿武郡一帯に飼われており、その数は8,000頭です。
千葉県の1部にも分布していますが、その数は少ない。かつて静岡県や愛媛県の1部に分布したことがありますが、結局は絶えてしまいました。
上述のように、今後の本邦の肉用牛として、すぐれた能力をもっていながら、これが思うように増えないし、分布も広くならない理由については、いろいろな考察がなされています。
肥りやすいので、すぐ肉牛のようになるから飼育農家はこれを売却して、現金化したがる。そのために、繁殖用の雌まで売られてしまうというのです。
家畜商の奨めもあって、事実、そのようなこともありうると思われます。
また、本邦の肉商は、スキ焼肉として最高の肉を生産する黒毛和種の肉牛に大きな魅力があるから、無角和種を肉牛にした場合には、肉質がよくないとして、これを不当に安く取引します。いわゆる買いたたくといわれています。
長年の伝統により、そのようなこともありうるでしょう。もしそうだとすれば、せっかく肉牛に仕上げても比較的安くて、農家の利が少ない。
したがって農家は無角和種を飼わなくなってしまう。これが無角和種の増えない理由だともいわれています。要は、無角和種に対する十分な認識が、まだ一般農家にも、肉商にもないためでしょう。
食肉が不足している本邦で、この無角和種の増殖は、今後に期待されるべきのものでしょう。