腸閉塞はイレウスileus、腸不通症ともいう。腸管内容の通過が障害された状態であって、内容通過が完全に阻止されたものと、内容通過が一部は可能なものとに分かれ、前者は急性症状を示すものが多く、普通これを腸閉塞といい、後者は概して慢性であって、腸狭窄症intestinal stenosisといって前者と区別されるが、移行型では区別困難です。
原因および分類
機械的原因によるもの(機械的腸閉塞mechanical obstruction)と機能的原因によるもの(機能的腸閉塞functional obstruction)とに分類できます。
機械的腸閉塞:閉塞性腸閉塞occlusive ileusともいう。
(ⅱ)腸壁の腫瘍、炎症、瘢痕、先天性奇形などによる腸管壁の肥厚、内腔の狭窄に起因する閉塞。腸管の損傷、腸手術もこの原因となる。
(ⅲ)腸管壁外側の腫瘍・膿瘍などの圧迫、あるいは腸壁の癒着牽引による閉塞
(ⅳ)捻転:volvulus(torsion)
(ⅴ)重積:intussusception, invagination
(ⅵ)索状物による絞扼:strangulation
(ⅶ)ヘルニア嵌頓:incarceration of hernia
(ⅷ):結節形成
なお、(ⅰ)~(ⅲ)は概して単純な閉塞であり、(ⅳ)~(ⅷ)は絞扼性で、複雑な閉塞ともいえる。
機能的腸閉塞:これはさらに痙攣性腸閉塞spastic ileus,麻痺性腸閉塞paralytic ileusおよび無力性腸閉塞adynamic ileusに分類される。
発生:動物別の発生概況および原因は次のようです。
馬
(ⅰ)単純性閉塞:回腸・結腸の便秘、大腸結石、子馬の胎便停滞などにより発生する。
(ⅱ)腸捻転:空腸、盲腸および大結腸に発生しやすい。はじめ便秘・食滞あるいは痙攣疝があって、馬が苦しんで転々とする時、または競走馬などの疾走運動の際に発生する。
腸間膜の長さ、腸移動の自由性とも関連する。
(ⅲ)ヘルニア嵌頓:中等度のヘルニア門の大きさのものに発生しやすい。まず腸の狭窄がおき、ついに嵌頓をおこす。雄馬の鼠径ヘルニア、腸間膜裂孔あるいは網嚢孔epiploic foramen(ウィンスロウ孔foramen of Winslowともいう。
胃と肝臓でつくる裂隙状の網嚢前庭と一般の腹膜腔とを結ぶ孔)を小腸が通過、あるいは小腸の嵌入による内ヘルニアにより、腸の狭窄、閉塞が発生する。
(ⅳ)索状物による絞扼:腹腔内の靱帯の癒着、有茎の脂肪腫などによって発生する。回盲腸口ostium ileocecaleの食滞の際にも病状が急性なので、絞扼として扱われる。
(ⅴ)重積:幼駒に多い。空・回腸に発生しやすい。
牛
(ⅰ)捻転:盲腸の捻転、円盤結腸spiral colonの回転、空腸の捻転、子牛の腸間膜の捻転がおこることがあります。
(ⅱ)重積:成牛の空回腸にしばしば発生する。
(ⅲ)ヘルニア嵌頓:外ヘルニアでは、時に腸管の狭窄、嵌頓が起って内容の通過障害が発生する。腸間膜の裂隙あるいは膀胱腹側靱帯の後方に小腸が内ヘルニアをおこし、嵌頓のためしばしば腸閉塞が発生する。
また円盤結腸が大網の裂隙を通って網嚢内に嵌入し、内容の通過障害をおこすことがある。
(ⅳ)単純性閉塞第二胃よりの鋭利な異物の移動穿刺による二次的閉塞、胃石の移動による閉塞、腸の損傷による癒着性の狭窄~閉塞が発生する。
また卵巣の黄体除去後の出血大凝塊が器質化し、腸管を圧迫し、あるいは外因性に腸間膜または大網の脂肪壊死塊などにより、圧迫閉塞が発生する。