蹄冠部の損傷(injury on the coronet) ~ 裂蹄(sandcrack)の原因・症状・治療法

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踏躡(踏みかけ)による蹄冠部の損傷(主として挫創)で、一般に蹄冠躡傷tread on the coronetといわれます。


急旋回時の横滑りや密集運動時の踏躡時にみられ、冬期に尖鋭な鉄臍蹄鉄によって発した場合は傷害が重度です。


このほか、鉱物性蹄油や蹄軟膏の塗布、蹄冠部の前面に発した創傷・挫傷、挙踵、蹄叉腐爛、繋皹などの炎症性刺激が肉縁や肉冠に及んだ場合は、それぞれ肉縁炎および肉冠炎inflammation of the perioplic and coronary coriumといいます。


蹄壁の胚芽層に著しい傷害が起こり、細菌の感染を招くときは、充血腫脹・熱痛のため支跛を呈し、部分的に蹄壁の生長障害や異常蹄輪を発現します。


治療法としては、安静にして、局所を清浄し、創傷療法を行います。

裂蹄(sandcrack)

 


裂蹄とは、蹄壁の一部が分裂したもので、分裂の深さによって、表層裂superficial sandcrack・深層裂deep sandrackに分けられます。


分裂の方向は角細管に平行したものが多く、これを縦裂蹄vertical sandcrackと呼び、それに直角に生じたものを横裂蹄horizontal sandcrackといいます。

裂蹄の原因



本症は、肢蹄に対する体重圧の偏り・蹄の乾燥および蹄機の障害によって発する場合がおおい。素因としては不良肢勢(広踏外向肢勢・狭踏外向肢勢・外弧肢勢)・脆弱な蹄質・変形蹄(挙踵、狭窄蹄、傾蹄、彎蹄)などが挙げられます。


一般に裂蹄は前肢の内側蹄踵壁の縦裂が多く、深層裂の場合はまれに破傷風菌の侵入門戸になることがあります。

裂蹄の症状



表層裂すなわち蹄角質部の裂蹄では、知覚部にほとんど影響がないため、跛行を呈しませんが、深層裂では、負重および離地に際して裂縁が開閉するため、角質あるいは知覚部に牽裂をおこし、高度の跛行を呈します。


特に蹄冠部や全長にわたる裂蹄では出血しやすく感染するおそれがあり、また真皮葉に変性をきたして角壁腫を形成することが多い。


表層裂は一般に予後は良好ですが、陳旧で進行性のものや、蹄踵壁の深層裂あるいは強度の広踏外向肢勢に併発するものは不良の場合があります。

裂蹄の治療法



一度分裂した角質を、人為的に癒合させることは困難です。強力な接着剤を裂縁間に充塡しても、裂蹄の原因が除去され、その部が新しい角質でおきかえられないかぎりは全治しません。


治療の主眼は、まず、すべての誘因を除去して、平坦削蹄を行ったのち、分裂部の負縁に間隙を設けて、患部に対する負重と地上圧の軽減をはかります。


蹄踵壁の裂蹄には、四分三蹄鉄を装着するのがよい。


裂縁の閉合法には、鉸釘閉合、鎹子閉合・鉄板閉合などがあり、また裂部の延長を防止するための造溝法grooving operation(深さは角壁の内層までとする)がありますが、いずれも姑息的な方法とされています。


裂蹄の療法でもっともすぐれたものは薄削法です。すなわち患部の角質を刮削刀で薄削して、その内層を露出させるときは、裂縁開閉による知覚部の圧迫が去り、跛行が軽減します。


蹄冠裂の場合には、肉冠発芽層および真皮葉の表面が現れるまで薄削し、爾後における新生角質の形成を待ちます。


この手術は消毒を完全にして行うことが肝要であり、また術後数日から、新生角質の増生をはかるために、患部を中心に葉緑素軟膏を、毎日1回長期にわたって塗布します。

キジと水鳥 仲田幸男
キジと水鳥 仲田幸男 昭和46年12月20日 ASIN: B000JA2ICE 泰文館 (1971)
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