輸液 ~ 輸液の第一の目的は脱水・水分過剰などの水分代謝異常や電解質平衡異常の補正



輸液の第一の目的は脱水・水分過剰などの水分代謝異常や電解質平衡異常の補正です。


さらに手術時の腎障害防止、中毒時の毒物排泄の促進、食欲不振患畜への栄養分補給などにも用いる。

輸液の基本成分


注射用蒸留水

輸液の投与量は体重の10%以上になる可能性もあるほど大量であるから、注射投与では発熱物質が混入していないことが必要です。

このためには高度に純化された水と適切な容器が必要です。

塩化ナトリウム

血漿のNa⁺濃度は140mEq/lであるから0.8%が等張です。

塩化カリウム

K⁺を血漿と同一の濃度に添加するか、または必要に応じて濃度を変える。

K⁺は心に対して抑制作用が強いので、輸液によってその濃度が危険な水準にならないことが必要。

塩化カルシウム

Ca²⁺は大量の輸液によって細胞外液中の濃度が低下すると危険なイオンであるから、一般にはCaCl₂として輸液に加える。

CaCl₂は酸形成薬としても作用する。


塩基形成薬(alkali forming agents,アルカリ化薬)



体内代謝は一般にアシドーシスに傾く傾向があり、補液の基本成分に挙げられた無機塩類はいずれも体内で弱い酸形成作用を示すので、輸液には塩基形成薬の添加が必要です。

乳酸ナトリウム

乳酸の酸性が強いので中性塩であるが、体内では乳酸が肝に捕捉されて代謝されるのでNa⁺が残って酸を中和する。最も汎用される塩基形成薬です。

炭酸水素ナトリウム(重曹)

塩基性の塩であり、また配合禁忌の薬物が多いので一般的な輸液に用いるのは不適当です。アシドーシスの治療に経口投与するが、ブドウ糖との配合輸液としても用いる。

トロメトモール(trometomol,tris-(hydromethyl)-aminomethane,THAM)

アシドーシスの専用治療薬であり、専用の配合輸液として静注で用いる


酸形成薬(acid forming agents)


塩化アンモニウム(ammonium chloride)

塩化アンモニウムは酸形成作用と酸性尿の排泄を促進する利尿作用を示す。

作用機序

塩化アンモニウムの経口摂取によって次の反応が進行する。

NH₄Cl→尿素+HCl(肝細胞で進行)
HCl+NaHCO₃→NaCl+H₂O+CO₂(肺から呼出)

即ち代謝性アシドーシスを起す。この結果、腎では代償性Na⁺・H⁺交換が促進され、主としてNH₄Clが尿中に出ると共に尿量を増加する。

尿中に排泄されたNH₄Clと投与したNH₄Clが等しくなると代償性反応が終了し、利尿作用もなくなる。

臨床応用

利尿薬としてより酸形成薬として用いられる。またループ利尿薬における尿pH上昇の防止に利用される。

家畜の尿石の殆どはMgとアンモニウムを主成分とする酸溶解性の結石であるから、犬猫や牛の尿石溶解剤として汎用される。

DL-メチオニン(DL-methionine)

経口投与すると体内で代謝されて、分子内の硫黄が硫酸塩になって尿中に排泄され、尿を酸性化する。

犬猫の尿酸性化剤・尿石溶解剤として用いられる。


浸透圧調節薬


ブドウ糖

ブドウ糖は5~50%で用いられる。5%がほぼ等張です。ブドウ糖は還元力が強く、またその水溶液の酸性が強い。

局方ではpH3.5以上となっていますが、局方外品にはそれ以下の製剤もある。従って配合禁忌になる薬物が多い。

ブドウ糖を輸液に加える第一の目的は浸透圧の調整であり、低張性塩類溶液の輸液が必要な時には高張ブドウ糖液を加えて等張にした液を用いる。

第二の目的は糖原補給です。獣医界で高張ブドウ糖液が大量に用いられるのは牛ケトン症の糖原補給に用いるからです。

キシリトール(xylitol)

ブドウ糖の代替品として用いられる五単糖。還元力がないので配合剤に適し、またインスリンと無関係に組織細胞で利用されるので糖尿病患畜にも使用できる。

キシリトールは体内でのグルコース代謝の中間産物でもあるが、ヒトでは大量の急速静注による事故のある薬物としても知られている。


血漿増量薬(plasma expanders)


デキストラン(dextrans)

血漿増量薬とは高分子の物質で、輸液に加えて静注すると血液の膠質浸透圧の発生源になり得る薬物であり、主としてデキストランが用いられる。

デキストランは乳酸菌が生産する分子量400万の多糖類ですが、加水分解して分子量を7万にしたデキストラン70と4万にしたデキストラン40とがある。

血中滞留時間は長く、半減期が24時間に近い。

デキストランを血漿増量薬として用いると投与量が多くなるために副作用の発現頻度が高く、また多くの病態では血漿浸透圧を高める必要性が少ないので、多量の出血後の輸液以外には用いない。

ヘタスターチ(hetastarch)

分子量が数十万の澱粉誘導体で、デキストランより副作用の発現頻度が低いので、多量出血後の輸液に用いる。


市販製剤



輸液用製剤は血液代用剤と呼ばれますが、ここでは三種類に分類して記載

●汎用製剤

乳酸リンゲル液

リンゲル液に乳酸ナトリウムを加えて中性にした液で、浸透圧比が0.9で間質液とほぼ等張です。最も多く用いられる製剤であり、ブドウ糖を添加した製剤もある。

リンゲル液、ブドウ糖リンゲル液

リンゲル液はNaCl、KCl、CaCl₂だけから成る等張液。

後者にはさらにブドウ糖5%を加えてある。

古くから用いられていますが、酸性化傾向のある製剤です。



用時調合用製剤(補正用塩類製剤)

塩化ナトリウム液

0.9%の生理食塩液や10%液剤などがある。

補正用塩類

塩化カルシウム、塩化カリウム、乳酸ナトリウムが水溶液で、塩化アンモニウム、炭酸水素ナトリウムが結晶として製剤になっており目的に応じて用時に調合または溶解する。

目的別配合剤

患畜の病態とか使用目的に応じて数十種類の製剤が市販されている。

血液透析や腹膜透析に用いる溶液も血液代用剤に分類されていることが多い。


輸液の方法



輸液の目的は水分・電解質や酸塩基の平衡異常の補正、腎機能の維持・促進から栄養補給まで多種類に分けられる。


これらの目的と病態に応じて使用液を選択する必要がありますが、一般には事前の臨床検査が必要です。

液量



脱水の程度は皮膚の状態から知ることが出来る。体重の16%は皮膚であり、水分含有量は70%です。皮膚は水分の不足状態での供給源になり、過剰状態での貯蔵部位になる。


従って脱水や水腫の良い指標になる。

基礎液量

飲水のない場合には成熟動物で65ml/kg/day,幼弱動物で130ml/kg/dayが補給すべき基礎液量になります。

脱水状態の補正

下痢などで脱水しても体重の4%以内なら臨床的に脱水症状は認められない。この状態では基礎液量で十分です。

中程度の脱水では皮膚がレザー状になり、摘み上げた時の戻りが遅く、粘膜が乾燥してくる。この状態では1日あたり体重の6%の液量が必要です。

皮膚の弾力性が失われたような重度脱水では体重の8%が必要です。

循環虚脱とかショックでは体重の12~15%もの輸液が注入される。

注入速度

健康動物は2ml/kg/minの静注にも耐えるといわれていますが、この速度では中心静脈圧が上昇するので病畜には危険であり、0.5ml/kg/min程度に止める。

投与経路

可能な限り経口投与が優れている。

経口投与には下痢用経口補液剤を用いる。

静注

等張液や高張液の注入には適するが、あまり低張性の液の注入には不適当です。

皮下・腹腔注

皮下への注入は小動物に適し、中・大動物には腹腔注が適当です。いずれの経路も電解質成分の等張性が要求される。

ブドウ糖を加えて等張にした液は不適当です。

非経口栄養

重症の消化器障害では輸液によって栄養分を補給する方法(parenteral alimentation)もありますが、安全な投与のためには大静脈への留置カテーテルの設置が必要であり、獣医領域では実用性に乏しい。

キジと水鳥 仲田幸男 昭和46年12月20日 ASIN: B000JA2ICE 泰文館 (1971)
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