真菌による乳房炎
真菌類の感染による乳房炎も無視できない。地域によっては乳房炎の症例の3%に達する所もあります。
クリプトコッカスCryptococcusの感染は重症の臨床型乳房炎をひこおこす。分房の腫脹が初期に著しく、発熱と食欲不振があります。
乳量の減少は著明で、長くいつまでも続く。乳腺組織が肉芽組織で置換される。しかし、若干の例では炎症が退行して、組織が正常にもどることもある。
カンジダCandidaおよびトリコフィトンTrichophytonもまた重度の乳房炎を招来する。全身症候が明らかで、乳量の減少も著しいが、永続することはない。
多くは2週間~1ヵ月で正常にもどり、後遺症がない。ただ炎症の消退後、長期にわたって菌を排出する例があります。
これらの真菌性乳房炎は、真菌に汚染した注射器やカニューレの使用あるいは真菌が混入した乳房炎治療薬の乳房内注入によって伝染します。
無乳レンサ球菌性乳房炎あるいは乾乳牛に対する治療のために乳房内注入を行ったあと4~5日で発症する例がある。菌数が多いほど症候が重い。また正常分房内に注入しても容易に感染します。
細菌性乳房炎の治療に使用される抗生物質は真菌に対して効果がない。
ナイスタチンが使用されることがある。しかし、カンジダ感染症の場合には、自然治癒の例があるため、ナイスタチンの効果が判定しにくく、またクリプトコッカス感染症には無効です。
その他の病原体による乳房炎
以上のほか、乳房炎牛の乳房分泌物から、放線菌Actinomyces bovis、ノカルジアNocardia asteroides、ウェルシュ菌Clostridium perfringens、ブルセラ菌Brucella abortus、結核菌Mycobacterium bovis、壊死桿菌Fusobacterium necrophorum、レプトスピラLeptospira pomonaなどが、少数ではあるが検出されています。
ただ、これらの症例の発生は散発的であり、また分離された微生物がかならずしも直接の原因とは考えられない場合もあります。
その他、ミルクからウイルス(パラインフルエンザⅢウイルス、ヘルペスウイルス、エンテロウイルスなど)も分離されているが、その場合の炎症は長続きせず、またウイルスが分離される期間が短く、これらが乳房炎の一次性の原因であるかどうかについては確認されていない。