水銀中毒・治療法
治療の第一は中毒の原因を速やかに除去することで、塗擦した水銀軟膏は拭い去り、内用した水銀に対しては不溶剤で無毒な硫化水銀 HgSに変化させなければなりません。
この目的には昇華硫黄、硫化カリウム、硫化鉄、次亜硫酸ナトリウム、硫醋酸ストロンチウム等を用い、時には鉄粉あるいは硫酸鉄(硫酸第二鉄液が多く、本剤については前述砒素中毒の項を参照)のように鉄剤ならびに煆性マグネシウムを解毒薬とします。
而して玆に注意を要することは昇汞中毒に際し食塩を用いることは禁忌で、若し食塩を与えれば昇汞の可溶性を増加し中毒作用を助長します。
同時に胃腸粘膜の損傷を防ぎ吸収を妨げるために包摂剤として卵白、牛乳、アラビアゴム、澱粉漿などの経口投与をします。
特に卵白は水銀のみならず重金属の解毒薬であつて、その理由は卵白と重金属の化合により蛋白化金属を生成するからです。
次で一般中毒症状を現わせば対症的に処置しますが、特に麻痺に対しては樟脳、酒精、エーテル、カフェイン、アトロピンなどの刺戟薬を用いる。
水銀に依って発した口腔炎には塩酸カリがよく、慢性水銀中毒の際は沃度カリを与え水銀の体外排泄を速やかにします。
その他急性中毒には吸着剤として木炭末、獣炭末を内用しあるいは水酸化マグネシウムの内用は水銀塩をよく吸収するため推称されます。
また疝痛に対してはモルヒネを用いるべきです。
外用による皮膚炎、糜爛、浮腫などには亜鉛華油を塗布するか、あるいはウイルソン氏軟膏などを塗布します。
急性中毒の解毒薬処方例
大動物20.0~50.0 中動物5.0~10.0 小動物0.5~1.0
①硫黄華50.0 ヨードカリウム10.0の3包を作り毎日1包宛与う(牛)
大動物5.0~15.0 中動物0.5~2.0 小動物0.05~0.5
①硫化カリウム10.0 ロカイ末30.0 亜麻仁煎(50.0)560cc 混和頓服(牛)
静脈内注射 大動物60~120g 中動物25~50g 小動物3~5g何れも20%溶液として1回量ですが、初め濃度の低いものから漸次高いものに増量することもよい。
内用 チオ硫酸ナトリウム60.0g 重炭酸ナトリウム20.0 蒸溜水300.0cc(馬)
Thioessigsäures Strontiumの1%溶液(大動物400cc~小動物20cc)の皮下あるいは静脈内注射。
または次亜硫酸ナトリウム量と同量の内服。
【注意】硫黄華などの薬剤は屠獣および乳牛に与えると乳肉に硫化水素の臭気を附与することがあります。