Petrelius氏(1953)の報告によると、最近スウェーデンで牛の水銀蒸気中毒が問題になつたので、実験中毒を行った結果は次の通りであるとのことです。
約80立方米の厩舎内に馬と実験動物(羊2、仔牛1、牝牛1)を同居させ、馬の後肢に約30%の水銀(Hg)を含有する灰色軟膏を1週間200~400mg塗擦し、実験中は舎内の換気を不完全にしました。
すなわち、換気不良で舎内温度20~24℃で舎内の空気中のHg濃度は1.6~2mg Hg/m³を示し、正常換気では0.6~0.7mg Hg/mでした。
上記の実験動物は多少に拘わらず、それぞれ呼吸困難、咳嗽、食欲不振、遅鈍、鼻漏、呼吸および心搏動の増加、発熱、蛋白尿などの症状を現わしました。
羊は2頭とも中毒死を来し、剖見は、1例は肺水腫、胸水腫、急性鼻炎、急性淋巴腺炎を、他の1例はネフローゼ、急性腸炎、盲腸粘膜の潰瘍、心内外膜下出血、肺の充血水腫、肝壊死、軟脳膜下水腫が認められた。
また科学分析ではいずれも死後蔵器中に中毒を起すに足る充分な水銀量の含有が認められました。
牛では実験開始4日目に、尿中に0.23mg Hg/mの水銀含量が証明され、治療中止後、11日でもなお同量の含量を示しました。
実験中止後、不規則な脱毛斑が頭部特に後下顎部、頸部、飛節部に現れ、皮膚の肥厚と痂皮の形成を招来しました。
半年後の剖見では慢性腸炎、全身性貧血、粘膜下出血、肺気腫、限局性脱毛が認められました。また、化学分析では肝、腎に中毒を起すに足る水銀の含量が認められました。
以上の実験から蒸気となつた水銀による家畜の中毒は可能であり、羊の方が牛に比べて感受性が高く、また個体による強弱も認められました。
なお一般に海岸や沼沢などで空気中に塩素の多い場所に飼養される家畜は、水銀剤に対する抵抗力が低下するといわれています。
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