水銀中毒の原因
家畜中毒原因の主なものは水銀そのものよりも、水銀製剤の薬用により、または消毒剤、駆鼠剤および農業薬剤の誤用によつて起るもので、特に牛に多い。
各種製剤についてその主因を述べると次の通りです。
本剤は水銀30分、脱ラノリン7分、安息香豚脂16分、牛脂37分よりなり屢々中毒の原因となります。
而して反芻獣特に牛の虱駆除や乳房炎の際塗抹されて中毒した例が多い。
30gの軟膏は成牛に対し相当重症な中毒を招きます。鳥類も亦感受性強くカナリヤに0.5gを塗擦すると斃死します。
これに反し馬と犬は水銀に対する感受性弱く、例えば1才の犬は1回に軟膏170gを食したが中毒症状を現わさず、馬は1ヶ月間に324gの軟膏を用いて始めて斃れ、また他の馬は毎日120gの軟膏を塗擦し3.5kgで始めて中毒し1ヶ月を経て死にました。
本剤は水銀製剤中、最も強力なもので、一般消毒剤としては500~1000倍水溶液とし、腐蝕剤としては1~10%溶液を用い、また駆鼠剤とする他、外科および産科において消毒剤として用いるため中毒の機会を与える。
牛は最も感じやすく1000倍溶液で子宮洗滌を行い、一般中毒を起すことがあります。
これに反し馬で防腐消毒薬として用いて中毒を起したことはありません。
而して昇汞の致死量は大体次のようです。
昇汞錠、1錠中に昇汞、食塩各々0.5gを含有し赤く着色される。1錠を500ccに溶解すれば1000倍溶液となります。
昇汞は甘汞と誤つて処方されて家畜の中毒を招き、あるいは入手しやすいため悪意による中毒が多いもので、特に馬、犬に注意しなければなりません。
牛は最も感受性に富み0.8~10.0gで既に重症中毒に陥る。
馬は20g、緬羊・山羊は5gが重症乃至致死量と認められ、犬は2g、豚は10gで始めて中毒する故比較的抵抗力があります。
本剤は内用に供せられぬもので、若し胃中に入るときは胃酸に逢い忽ち昇汞となり毒性を逞うします。
HgO + 2HCl = HgCl₂ + H₂O
故に専ら軟膏として軽い刺戟および腐蝕剤に用いますが、この場合は動物が舐めぬように充分の注意が肝要です。
殊に牛、犬は薬物の舐食によつて中毒を起すことが多い。
赤降汞の毒性は昇汞と甘汞との中間に位し、馬は5.0~10.0、犬は0.2~0.5で重症な中毒に陥る。
専ら炎症の刺戟誘導のため軟膏として用いるが、昇汞に似て猛毒で2.5才の牡牛に5gを軟膏として塗抹し斃死した例があります。
犬と豚は250.0~500.0gの大量を内用しても害を蒙らず家畜が直接水銀によつて中毒を起す機会は少ない。
然し水銀蒸気を吸収したために生ずる中毒は臨床上認め得られる。この場合水銀は可溶性化合体に変じた後吸収され、気管支炎、肺炎竝に一般中毒症状を現わします。
有機性水銀剤としての農薬ウスプルン、セレサン等の誤用より家畜の中毒を惹起する機会は相当多く、殊に消毒種芋や塗抹麦類種子は最も危険です。
北海道紋別地方では昭和30年にセレサンで消毒した亜麻仁種子粕により29頭の牛が中毒した例があります。
また、水銀殺菌剤で処理された燕麦種子の残物が75%の割合に含まれた穀粒を、生後4ヶ月の仔豚に与え、4週間で中毒した例や、同様水銀剤で処理されたトウモロコシ種実の残物によるチンチラの中毒死の例およびウスプルン液の誤飲による和牛の中毒例などがあります。
エチル燐酸水銀、エチル塩化水銀ともにネズミの経口LD₅₀は30mg/kgです。
また、セレサン石灰を反当り4~6mg散布し、この青草を80日与えた牛は脈搏が増加し、血球が一時増しました。
山羊にセレサン石灰を0.4/mgで与えると軽い中毒を起し、3gでは激しい中毒を起します。その他、最近牛の水銀蒸気中毒が問題になっています。