乳用種の代表的なもので、本邦ではホルスタインまたはホル種といいます。
ヨーロッパでは、黒白斑牛Black and whiteといい、イギリスではフリージアン、アメリカ、カナダではホルスタイン・フリージアンといっています。
ホルスタインの詳細
原産地はオランダのフリースランド州と北オランダ州ですが、ドイツのホルスタイン地方にも早くから分布していました。この祖先は、Bos primigeniusの直系とされています。
家畜牛のうちでは、もっとも古い品種で、2000年以上になるだろうと推測されています。
原産地のオランダは平地であり、土地が肥沃で、雨量も十分で、牧草の栽培に適し、草生豊かです。その条件が本種の特色を生み出したのか、本種はよい草地を伴って、十分な泌乳能力を発揮するという型です。
それにオランダでは、夏期は放牧地で野外搾乳が行われ、冬期は農業の主屋と同じ屋根の下か、またはそれに隣接した牛舎で、舎内飼育されるという飼育形式であり、そのためか牛の温順な性質ということが古くからやかましくいわれたらしく、牛の改良上にもこれは重視されてきました。
その結果本種は性質の温順なものとなっています。さらにオランダは古くからチーズをその主要な酪農製品としており、重要な輸出品としていますが、そのチーズ製造用の牛乳としては高脂肪の牛乳よりは、ある程度低脂肪でも、乳量が多量にあることが望ましい。
現在のホルスタインは乳量が多く、その代わりに乳脂肪率(Fat percent)がやや低く、それが大きな特色となっています。これは改良の重点が乳量ということにおかれたためです。
このように牛の特色はその飼われている条件、ことにその原産地の立地、経済の諸条件に支配されて生ずるものです。これは牛だけでなく、人類に利用される家畜であってみれば、そのすべてに共通しているといえるでしょう。
オランダでは、改良の途中で体格を大きくする意味でショートホーンを交雑したことがあります。そのためか、いまでも毛色に黒白斑でなく、赤白斑の現れることが、時々あります。
本邦でも、赤白斑がまれに生まれます。本邦ではこれは失格として登録しませんが、オランダでは黒白斑のものと別にして登録しています。
泌乳能力のすぐれたものは赤白斑でも利用すべきであるという意図でしょう。
オランダに限らず一般にヨーロッパでは、ホルスタインは乳用本位ですが、その肉も十分に利用できるものとして改良が進められてきました。
すなわち、その雄子牛を肥育すれば能力のよい肉用牛となれるというようなものの作成に努力してきました。この肉は脂肪のあまり蓄積しない肉生産を意味し、これは生理的にも、乳生産と矛盾するものでないとしています。
そのようなことが影響してか、ヨーロッパのホルスタインは、体高はそう大きくありませんが、体重はいくぶん大きく、肢の骨が太く、全体としてがっちりとした体型をとっています。
また肩や腿の肉付きが多少厚い傾向があります。
これに反し、アメリカ、カナダのホルスタインは全く乳用本位に改良されたせいか、いわゆる乳用タイプで、鋭角型で、肢の骨も細く華奢な様子をしています。
このように同じホルスタインでも改良の狙いの違いで、かなり異なったタイプのものになっています。
本邦のホルスタインは大体アメリカ型ですが、近年肉需要の多いところから、肉利用をいくらか考えたホルスタインにすべしという意見もあります。
また、ホルスタインの1部をそのようなものにすべしという意見も聞きます。
改良の方法としては、純粋繁殖を行い、一定の目標を立てて選抜を繰り返すという方法をとってきました。そしてその結果現在の高能力のものが作出されました。
しかし、全体的には良い雌牛中心主義で、母系尊重主義でした。
しかし近年は、泌乳能力の検定事業が普及し、高能力の雌牛を生産した父牛の評価が十分なされるようになり、次第に父系尊重主義になろうとしています。
もちろん、これは遺伝学的には父系も母系も尊重して交配計画を立てるのが正しいはずです。
外観
毛色は、黒白斑または白黒斑ですが、その範囲は広く、全黒から全白に近いものまで様々です。これは品種の特色として毛色を狭く一定にしていない1例です。
ただし、ふつうは黒色部は体の上部に現れ、腹部は一般に白です。また尾房、四肢の下方も一般に白で、これらふつうに白色の現れる部分が黒色であると失格させることがあります。
例えば、本邦のホルスタインでは、白または黒一色のもの、尾房の黒、腹部全黒のもの、1肢でも黒毛で蹄冠部をとりまくものは登録されないことになっています。
また本邦では白と黒との毛の平等に混じっているいわゆる更紗毛のものも登録されません。
毛色は、黒がちなものを好むもの、白がちなものを好むものなど、ヒトによって様々ですが、毛色と泌乳能力との間には相関性はない。
要は、毛色にとらわれて泌乳能力を犠牲にするようなことのないよう注意すべきでしょう。
また黒がちは牛が丈夫そうな感じを受け、白がちは体質が弱そうにみえるとして、体質との関連をいうものもありますが、これも別に根拠はありません。
体は大きく、体高は成雌140cm、成雄152cmが大体の標準です。丈夫で特に中軀と乳房とが大きい。中軀の大きいことは、この牛の粗飼料をよく利用することと関連があるでしょう。
体型は前方から見ても、側方から見ても、また後上方からみてもクサビ型を呈しており、乳用牛らしいところを多分にもっています。
ただし、最近はあまりこのクサビ型はやかましくいわない。
それをあまり重んずると体積をある程度犠牲にし、弱々しい長持ちしないような牛になってしまうからです。体積の十分にある、がっちりとした牛は、必ずしもクサビ型を呈しません。
体に比例して頭部は比較的小さい。顔は細長く、両眼間が多少くぼみ、横顔はまっすぐで、鼻と口は大きい。角は中等の大きさで、前下方に向かって曲がっています。
背線は大体水平で長い。肋はよく開帳し、後軀は幅広く良く発達しています。尾が傾斜し、斜尻のものもいくらかあります。一般に乳房は大きく、その質も概してよいが、前乳房の発達のよくないものもあります。
また、たれ乳になりやすいところもあります。
体重の標準は、乳用牛としては最大であって、本邦では泌乳中の成牛で約650kg、成雄は約1,000kgです。オランダの標準はこれより少し大きい。
アメリカではこれより幾分小さく、雌550kg~600kg、雄、800kg~1,000kgがふつうです。
能力
乳量が大で、乳期が長い。乳脂率は低いですが、近年改良されて平均3.5%にはなっています。
乳量は1か年、4,500~5,000kgがふつうで、高等登録牛には、10,000kgを越すのも多い。乳脂質でも4.0%を越す系統が出来ています。
ホルスタインの牛乳はその色が白い。脂肪球は小さく、直径は平均2.58μといわれています。したがってバター原料としては不向きですが、練乳、粉乳、チーズの原料乳としては良い。
この牛乳の色が白く、ジャージーなどのように黄色でないのは、飼料に由来する黄色のカロチンを無色のビタミンAに変える能力の大きいことを示すとされています。
体脂肪の色もジャージーなどに比べて白い。これはホルスタインがヨーロッパで行なわれているような子牛肉生産(Veal Production)にむいている1つの原因です。
その他、子牛の生時体重が40kg内外で割合に大きく、哺乳中の発育が早いことも子牛肉生産に適している理由です。
一般に性質温順で、良質の草は多食します。
ただし、草生のよくない牧野に放牧したり、良質でない草を与えたりすると、採食力は十分ではありません。熟性は早熟とはいえず、若雌牛の交配月令は19~21か月で初産月令は28~30か月です。
妊娠期間は、雌胎児の場合、280.13±0.45日、雄胎児の場合、281.73±0.34日です。環境適応性(Adap-tability)は比較的つよい。
特に寒冷に対しては強く、暖地より寒冷地に向いています。炎暑に対する抵抗性はあまり強くなく、気温28℃を越すと泌乳量は減少します。
分布
世界の主な酪農国に広く分布しています。
アメリカ、カナダ、オランダ、ドイツでは、他の品種を圧しています。イギリスでは乳用ショートホーンについで第2位です。南アフリカ、南アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドに分布しています。
本邦には明治18年(1885)に輸入され、その後も何回となくアメリカとオランダから輸入されました。最近は、アメリカとカナダから種雄牛が良く輸入されます。
アメリカの有名系統は、ほとんど全部すでに輸入されているので、いつまでも輸入にたよらず本邦において独自に優良系統を作出し、輸入をなくすべきという声が大です。
なお、本邦ではホルスタインの血統登録されないものを純粋でないという意味で俗にホルスタイン雑種またはホル雑と称しています。
正式にはこれはホルスタイン系種といい、これはホルスタインとは別に登録され、改良が進められています。