重金属解毒薬(heavy metal antidotes) ~ 重金属中毒の解毒に用いる薬物はいずれもキレート化物質



重金属中毒の解毒に用いる薬物はいずれもキレート化物質(chelators)です。

共通的性格


科学的特色

キレート化物質とは①フレキシブルな基本骨格を持ち、②二つ以上の官能基が金属と結合できる化合物です。キレート化物質は金属とイオン結合して安定なキレート化合物を形成する。

金属親和性

重金属中毒では一般に重金属が細胞内に入って蛋白と結合している。

キレート化物質は一般に細胞内に移行できない。従って間質液中に入れば細胞外から細胞内の重金属を引出して結合するだけの高い親和性が要求される。

エデト酸のCa塩が試験管内では水銀とキレートするのに生体内で無効なのはこの親和性の不足によります。

水溶性

重金属解毒薬として用いるキレート化物質の特色は、①それ自体の水溶性も金属をキレートした化合物の水溶性も高いことと、②蛋白結合性が殆どないことです。このような性格のために一般に①経口投与では吸収されない。②体内では血漿と間質液に均一に分布する。③親化合物と金属キレート化合物がイヌリンクリアランスの速度で腎から排泄されるなどの特色がある。

重金属をキレートした化合物の毒性は強いので、時間をかけて解毒する必要があります。


エデト酸カルシウム(calcium disodium edetate)



エデト酸(ethylenediaminetetraacetic acid, EDTA)のNa₂塩はCaのキレート能があるので試験管内血液凝固抑制薬として用いるが、Na₂塩を静注するとCa²⁺と結合して低カルシウム血症になるので危険です。


エデト酸は重金属に対してCaより強い親和性を示すので、CaNa₂塩を重金属解毒薬として用います。

体内動態

静注すると半減期40分程度で尿中へ排泄される。体内では代謝されない。

毒性の低い薬物ですが、金属をキレートした化合物は腎毒性が強い。

臨床応用

主として鉛中毒の治療に用いる。

多くの二価、三価重金属の中毒に有効ですが、水銀とヒ素には有効性が低く用いられない。犬の鉛中毒に対しては10~20mg/kgを1時間かけて点滴する。

この操作を1日2回、5日間続ける。


ジメルカプロール(dimercaprol,BAL)


体内動態

無色の油性液体で、筋注用の10%油剤として用いる。

筋注後の吸収は速やかであり、30~60分後に血中濃度が最高になる。体内ではSH基が酸化され、親化合物と共に急速に尿中へ排泄されるが、尿中の約半量が代謝物です。

臨床応用

水銀中毒、ヒ素中毒に用いる。

金属との1:1化合物は腎毒性が極めて強い。1:2化合物にすると腎毒性が弱くなる。このためには体内に十分量のジメルカプロールの存在が必要ですが、この薬物自体の毒性もかなり強い。

毒性としては痙攣と低血圧が現れる。

従って、なるべく頻回投与して毒性が現れないように高濃度を維持する。

牛のヒ素中毒に用いた結果は無効だったとの報告が多いが、3~4時間ごとに数日間投与を続けたら有効だったとの報告もある。

メチル水銀中毒には無効です。


d-ぺニシラミン(penicillamine, d-β, β-dimethylcysteine)


体内動態

アミノ酸のシステインのジメチル誘導体ですが、水に対する溶解性が極めて高いのに経口投与後の吸収は速やかです。これはシステインが必須アミノ酸で、小腸の上皮細胞にはその能動吸収系があり、ぺニシラミンがこの吸収系に取込まれるからです。

体内では代謝され難く、主として親化合物のまま急速に尿中へ排泄される。

CaやMgとのキレート能は弱いので、経口投与で吸収されて血中へ入っても低Ca血症や低Mg血症を起こす危険性はない。

臨床応用

銅中毒に対する有用性が高いが、鉛やヒ素の中毒にも用いられる。

解毒力は弱いが経口投与で使用できるので便利です。金属キレート物の腎毒性は強いので、少量ずつ分割して長期間投与する。


デフェロキサミン(deferoxamine)



放線菌Streptomyces pilosusの代謝産物フェロキサミンBを化学処理して鉄を除いた化合物。三価の鉄と特異的にキレート結合する性格があり、鉄中毒に用いられる。


キレート能は弱いので細胞内の鉄とはキレートせず、血漿中の鉄とだけ結合して尿中に排泄させる。

臨床応用

静注か筋注で用いる。

1日に2~4回の投与が必要です。急性鉄中毒には点滴で用いる。

鉄剤過量注射による急性鉄中毒症の死亡率はこの薬物の出現によって激減したが、慢性鉄中毒とか軽度の中毒症に対しては高い有効性が期待できない。

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