大動物
橈骨と尺骨からなる前腕骨は、馬では生後約1年、牛では生後3~4年で互いに骨性に結合して不動になるため、成牛・成馬の前腕骨骨幹の骨折では、2骨が同時に損傷をうけることが多い。
外力によるもののほか、馬では尺骨に疲労骨折がおこることがあります。開放骨折の発生は比較的少ない。
前腕骨の骨折の大多数は自然治癒が難しく、また治療には内固定と外固定の併用を必要とすることが多い。
橈骨の近位端の骨折では、しばしば骨片騎乗、粉砕骨折、縦亀裂がおこり、また尺骨と肘関節の損傷が合併し、重度の混跛、腫脹、疼痛、捻髪音が現れ、またしばしば橈骨神経の損傷がおこります。
ギプス包帯による肘関節の固定が非常に困難なため、Steinmannピンの刺入または骨プレートによる内固定とギプス包帯の併用などが行われますが、予後は不良で、成畜では、ほとんど治癒が期待できない。
尺骨の骨折のなかでは、ことに近位端(肘頭)の骨折が多く、その大多数では、上腕三頭筋に牽引されて、骨片の転位が著しい。
この場合は長い骨ネジによる骨片の固定か、太いSteinmannピン(径8mm)とワイヤーを用いて締結法を行い、それにThomas副子を併用します。
骨片の転位がない時には、Thomas副子による外固定と安静によって治癒することがあります。
橈骨と尺骨の骨幹に、同時に骨折がおこることが多いが、単独に横骨折、斜骨折などが発生することもあります。
尺骨体の骨折のうち、骨片が橈骨から分離せず転位がない場合は、支跛を呈するけれども、腫脹、疼痛が限局し、捻髪音が認められず、自然治癒が期待できます。
しかし、その他の場合は跛行、腫脹、疼痛が著しく、軋轢音が明らかです。また激痛のため、全身的障害が現れます。
橈骨の骨幹中央部の単純骨折は、ギプス包帯とThomas副子、または金属製か合成樹脂製の接合副子との併用で良い結果が得られます。
また尺骨体の骨折は、骨ネジまたは骨プレートによって橈骨に固定することができます。しかし、その他の場合は、内固定と外固定の併用が必要です。
内固定には、幼畜ないし若畜では、斜骨折ならばSteinmannピンを刺入し、あるいは圧迫プレート法(プレートを2個適用することもある)を用いることもあります。
髄内釘はゆるんで抜けることがあります。幼畜ないし、若畜の場合を除いて、予後は不良です。また骨幹の近位部の骨折は、遠位部の骨折にくらべて予後が不良です。
若い牛、馬では、橈骨の遠位骨端(線)の骨折分離がおこることがあります。
骨幹遠位部の骨折の場合とともに、ギプス包帯とThomas副子の併用によって治癒を見ることが少なくない。
また競走馬には、橈骨遠位端(茎状突起)の頭側に裂離骨折が、しばしば発生します。骨片を摘出することによって、能力に影響をおよぼすことなく治癒させることができます。
小動物
小動物の前腕骨には、さまざまのタイプの骨折が発生します。また骨が屈折または軸転を呈して癒合することがあり、また遅延治癒、癒合欠如に終わることも少なくありません。
猫の橈骨と尺骨の骨折は、少数の例外をのぞいて、副子による外固定法によって満足な治癒が得られます。
成長期の犬に稀れに発生します。
骨片を正確に整復して固定する必要があります。固定には、関節面の周縁から、異なる方向に2本のKirschnerワイヤーを刺入します。
骨端軟骨が早期に閉鎖して、骨の成長が妨げられる危険があります。
肘頭には、骨折線が滑車切痕に達する横骨折がしばしばおこり、骨片が上腕三頭筋に牽引されて上方に転位し、上腕骨骨幹の方に傾く。
このような骨折は、この牽引力に打ちかつため、締結の原理にしたがって、骨片を固定する必要があります。
大型犬の肘頭の骨折(または多発骨折)の場合には、半管状の骨プレートを使って、固定を強固にします。なお、成長期の犬の肘突起が肘頭と癒合しない場合には、肘異形成(elbow dysplasia)が生ずる。
猫でも、肘頭の骨折は比較的発生が多い。
骨折線が滑車切痕に達しているものもいないものも、Kirschnerワイヤーを肘頭の上端から刺入し、締結の原理にしたがってワイヤーを8字型にかけて、骨片を圧着させます。
Kirschnerワイヤーのみの固定法では、骨片が弛動して遅延治癒や癒合欠如がおこりやすい。
骨折線が滑車切痕にかからない尺骨骨幹近位部の骨折では、それより遠位の骨幹が橈骨とともに、肘関節より頭方・近位方向に転位した脱臼を伴います。
骨を非開放性に整復して、肘頭上端から髄内釘を深く尺骨骨幹に刺入します。
開放性に整復と固定を行う必要が生じることもあります。あとは厚く包帯で包んで保護し、運動を制限します。
前腕の尾側から外力が加わって、尺骨骨幹の上1/3から中央部にかけて骨折がおこると、尺骨と橈骨の結合が分離し、かつ橈骨頭の脱臼(または亜脱臼)が合併した損傷が発生することがあります。
これは人の場合には、Monteggia骨折またはMonteggia脱臼骨折といわれます。この場合はたいてい橈骨頭と尺骨の間に橈骨手根伸筋などが挟まる。
前腕の外側面から接近して、開放性に整復し、プレートと骨ネジで尺骨を橈骨に固定します。外固定を併用し、運動を制限します。
橈骨と尺骨の骨幹骨折の大多数は遠位2/3の領域におこります。
これらを治療する場合に犯しやすい誤りは、骨片の回転を防止できない固定法の採用、または仮骨が負重に耐えるまで十分強固にならないうちに固定装置をはずすことです。
非開放性整復と外固定
生木骨折と骨膜下骨折は、非開放性に整復した後、ギプス包帯、接合副子またはThomas副子による外固定を行います。
これらの装着後にはたびたび検査を行い、また運動を制限します。これを怠ると、固定がゆるんだり、褥瘡が生じやすい。
また手関節の背屈、外反、あるいは外旋がおこりがちですから、ギプス包帯によって、趾端がわずかに内反と内旋を呈した肢勢に固定するのがよい。
接合副子やThomas副子は安定型の骨折の場合にのみ適用されます。
開放性整復と内固定
橈骨骨幹の骨折では、前腕の前面と内側面の境を、橈骨内側茎状突起から上方へ切皮します。前面と外側面の境を切ると出血が多い。
尺骨骨折では、前腕の後側面を切開して接近します。
髄内釘による固定は、釘の挿入が難しいため、橈骨骨幹の骨折には適しませんが、骨片を正しい線にならべる目的で、遠位端から、または斜めに皮質を通して、刺入することがあります。この場合は外固定が必要です。
橈骨の骨折線の長い斜骨折または螺旋骨折の治療には、骨ネジが応用されますが、外固定または他の内固定法による補強が必要です。
橈骨と尺骨の骨幹骨折の大多数の例では、骨プレートによる固定法が適用されます。また橈骨と尺骨の骨幹骨折が併発した場合に、個所が遠位の2/3で、かつ安定型の骨折である場合には、橈骨を固定するのみでよく、尺骨は整復するだけで、固定の必要はない。
Kirschner副子は、特に小型犬の開放骨折、遅延治癒骨折、癒合欠如あるいは整形的骨切り術に適用されます。
整復の不良、固定の不完全または中断、成長期の骨の骨端の損傷、あるいは栄養の欠陥は、骨が屈折したまま癒合する原因となり、またこれにはしばしば骨片の旋回転位(軸転)を伴う。
これに対しては、脛骨骨折の場合と同様、骨切り術をほどこした後、Kirschner副子または骨プレートを装着します。
猫では橈骨の遠位骨端線に骨折分離が発生することがあります。
これに対しては、Kirschnerワイヤーを挿入し、副子による外固定を併用します。