小動物
犬、猫に発生する骨折のなかでは、大型犬、中型犬、猫などでは交通事故を始めとする外傷による大腿骨骨折が一般に多くみられますが、小型犬では橈骨・尺骨の骨折が多発する傾向にあります。
X線検査(少なくとも2方向)によって診断を確実にします。
大腿骨頭の裂離骨折では、骨頭の小部分が大腿骨頭靭帯に付着して分離し、大腿骨頭が前背方へ転位します。
X線検査で小骨片を見逃し大腿骨頭の単純な脱臼と間違えることがあります。治療法としては、①非開放性に整復したあと、肢を強く屈曲させて包帯で巻き(2週間)、そのあと、2~4週間運動を制限します。
②開放性に骨片を除去、脱臼を整復して、関節包を縫合し、肢の屈曲包帯を2週間ほどこす。または、③開放性に整復し、ネジを切ったピンで骨折を固定、関節包縫合、屈曲包帯2週間、などがあります。
治療の成否は、骨片の大きさ、整復後の安定度、運動制限のいかんによってきまります。
大腿骨頭の骨端(線)の骨折分離は、4~11ヵ月齢の若い犬におこります。
発症後24~48時間以内に整復-固定手術を行い、骨片の圧着と堅固な固定を実現しないと、関節包の血管内に血栓形成、骨頸の脱灰が生じて、手術の成功率が低下します。
背側から接近し、Kirschnerワイヤー(ネジを切って使うことがある)2~4本を挿入します。トグルピンを応用することがある。
肢の屈曲包帯を2週間、そのあと4週間は運動を制限します。
猫でも、近位骨端の分離は少なくない。
非開放性の整復と固定の方法として、患肢をできるだけ真直ぐに外前方に伸ばし、腹壁に密着させて包帯することがあります。
術後2~4週間でふつうに歩けるようになります。
しかし、3~4週間たっても骨の癒合に成功しない時には、骨頭-骨頸を切除します。
大腿骨頭と大腿骨頸の骨折では、しばしば大腿骨頭靭帯との結合が切れて骨頭が脱臼します。この場合は、骨頭と骨頸の血液供給がさまざまの程度に障害されるから、早期に修復する必要があります。
その障害が軽度な時は海綿質用ネジで固定し、肢の屈曲包帯を10~12日間、そのあと1ヶ月運動を制限します。
重度の時は骨頸を切断し、大腿骨頭-頸を摘出してあとに偽関節をつくらせる切除関節形成術(excision arthroplasty)を実施するほうがよい。
成長期の若い犬では、大腿骨頸の骨折または近位骨端の分離のあと、骨頸の短縮とさらに異形成による股関節の弛緩が発生します。
大腿骨頸の骨折はまた1歳以上の猫に発生します。手術によって治療します。
Kirschnerワイヤーを少なくも2本以上刺入しますが、さらに圧着ネジを併用します。
大転子の骨折の大多数の例は骨頭の脱臼を伴います。
非開放的整復を試みて、骨片が安定するならば、つづいて固定法を行うが、整復が不成功または骨片が安定しなければ、開放性に海綿質用ネジあるいは締結ワイヤー法による固定を行います。
肢の屈曲包帯をほどこし(7~10日間)、あと3~4週間運動を制限します。
若い猫でも大転子の骨折がおこり、しばしば股関節脱臼を伴うことがあります。X線写真では大転子の像が骨幹と重なることがあります。
細いワイヤーかピンで固定可能です。
股関節脱臼または大腿骨頸の骨折が合併している時には、骨頭-骨頸の切除が行われます。大腿骨頸、大転子および骨幹に多発骨折がおこることがあります。この場合の整復と固定は開放性に実施します。
股関節には背側から、また大腿骨には外側から接近し、海綿質用ネジ、圧着ネジ、骨プレートを組み合わせて固定します。
大型犬では、骨外面の彎曲に合わせた有角プレートの使用が必要です。3~4週間運動を制限し、プレートは4~6ヵ月後に除去します。
なお大腿骨頸の切断による切除関節形成術は、上記のほか大腿骨頭-頸の骨折の癒合欠如、寛骨臼の関節面の完全修復が不可能な骨折、Legg-Perthes病、重度の股異形成、慢性股関節脱臼、股関節の骨関節炎の症例にも行われます。
螺旋骨折、多発骨折が発生し、骨片の騎乗がおこりやすい。
症例の大多数は内固定法(骨接合術)によって治療します。クローバー型のKüntscher釘または骨プレートを応用します。
Steinmannピンは安定型の骨折の場合にのみ用使されます。多発骨折の大多数および大型犬の骨幹骨折では、骨プレートを使ってcompression platingを行うことがおおい。
本法によると、堅固な固定が持続し、その間、関節運動が可能なため筋の萎縮が少なく、運動機能の回復が早い。ふつう大腿外側面から接近する。
治癒後プレートを除去します。ほかにKircshner副子を適用することがあります。
大腿骨骨幹の骨折は、またしばしば成猫に発生します。多発骨折または粉砕骨折が多い。ピンとワイヤーを用いて、内固定法を行います。
手術の際に坐骨神経を損傷しないように注意します。内固定が不完全な時には、術後患肢を前方に伸ばして包帯で腹壁に固定します。
ハーフピン副子をほどこすこともあります。Thomas副子は適しない。
なお、どの動物でも、髄内釘を深く挿入する場合に、その先端が大腿骨の遠位端を突き抜けないように注意する必要があります。
顆上骨折または遠位骨端(線)の骨折分離は、若い犬(4~11ヶ月齢)に比較的多く発生します。
遠位の骨折はふつう尾側へ転位し、腹屈し、またかなり大きい血腫が形成されます。
遠位骨片を整復して正確に正常位にもどすのが理想的ですが、それが困難な時は、むしろ骨軸がやや背屈するように整復を過度にした上で、堅固な内固定を行う。
これによって、膝関節の可動性が保持されます。手技には熟練を要します。
髄内釘を1~2本、Rushピンを2本(上向きに)、またはピンを2本交叉するように刺入します。受傷後1週間以上を経過した陳旧例では、近位骨片の断端を一部切除して整復する必要が生じます。
正確な整復が困難な時には、むしろ遠位骨片を頭側に過度に整復して、固定する。
猫でも6~10ヵ月齢の若い動物に、顆上骨折または骨端(線)の骨折分離が発生します。遠位骨片は内側および尾側に転位して、整復が困難です。
受傷後72時間以上を経過すると、ことに手術が難しくなります。髄内釘で固定します。
骨端(線)の骨折分離の場合は、断端に凹凸があって骨幹端が骨端にしっかり嵌まって骨片の回転が少ないので、Kirschnerワイヤーで固定すれば3~4週間で骨の癒合をみる。
受傷後すぐに正しく整復すれば、治癒後にも骨端板の成長が維持されます。
顆骨折と顆間骨折の発生は比較的稀です。
正確に整復して海綿質用ネジで圧着固定します。
顆間骨折は骨端分離を合併してT字形骨折になることが多いから、上記のようにネジによる固定に、2本のRushピンによる骨端の固定を併用します。