血管の損傷
外力をうけて骨折がおこった場合に、骨に分布する血管の損傷は避けられません。その結果、直達骨折では、骨折個所の内部と周囲に出血して血液凝塊ができます。
出血が多量の時には、患部に血腫が形成されます(骨折血腫)。
介達骨折でも、ちぎれた血管内に血塊がつまります。
ハバース管内の血管もちぎれて、骨折線の両側で、ある距離までのハバース系の骨細胞が死ぬ。骨細胞に核濃縮がおこり、細胞が崩壊して、骨小腔が空になります。
同様に、外骨膜と骨髄の組織も、骨折線からある距離までは壊死に陥りますが、これらの組織は骨自体よりも血液供給が良好なため、その距離は短い。
仮骨の形成
骨折や骨の欠損がおこると、局所に多数の骨芽細胞(osteoblast)が集まり、その間に新生血管や遊走細胞をまじえて一種の肉芽組織をつくります。
骨芽細胞は細胞間物質を分泌し、それが多量になると同質性になり、類骨組織(osteoid tissue)(いまだ石灰化しない骨基質。正常には骨小線維がつくられ、接合質の沈着によって同質化し、のちに石灰が沈着する。クル病では多量に出現する)が形成されます。
この類骨組織には、しだいに石灰が沈着して骨質化し、骨芽細胞はその中に封じ込まれて骨細胞になります。この不整形、不完全な骨組織が仮骨(callus)です。
また骨膜由来の骨芽細胞のほかに、化生によって軟骨芽細胞が生じ、これが軟骨組織をつくって、新生骨組織の間に介在します。
仮骨の形成がある程度に達して、骨折部、骨欠損部を十分補いうる量になると、余分に形成された仮骨の不必要な部分は、破骨細胞(osteoclast)のはたらきによって吸収され、一方、必要な部分には骨質の添加と強化が行われ、また新生の軟骨は骨に置換されます。
皮質の薄い兎の肋骨について観察された骨折の治癒経過は以下のようです。
第1の段階は仮骨の形成(callus formation)です。
骨断端の外周には外仮骨(external callus)が、また二つの骨片の骨髄腔の間と皮質断端の間には内仮骨(internal callus)が形成されます。
はじめの2日間、外骨膜の深層(骨形成層osteogenic layer)に存在する静止状態の骨形成細胞(osteogenic cell)は、骨折の刺激によって増殖を開始し、厚い層となって、外側の線維層(fibrous layer)を持ち上げる。
骨髄腔内の骨形成細胞も増殖を開始します。
次の数日間、外骨膜と内骨膜の骨形成細胞の増殖がつづく。
増殖は、内骨膜におけるよりも外骨膜におけるほうが旺盛で、骨折線のすぐ近くで、骨折片の周囲をとりまくカラーを形成します。また骨形成細胞の分化がはじまります。
一方、毛細血管も増殖しはじめますが、その成長は骨形成細胞の増殖のペースよりも遅い。その結果、血管の成長が細胞の増殖と歩調がそろっているカラーの深層では、骨形成細胞が骨芽細胞に分化し、これが骨組織を生成していきます。
一方、カラーの表層では、血管の成長が細胞の増殖に追いつかないため、骨形成細胞は軟骨芽細胞になって、軟骨組織を生成します。
骨生成の幹細胞(stem cell)である骨形成細胞の分化は、環境条件によって左右されます。すなわち、ストレス(骨折の圧迫)と高いO₂分圧がある所では骨芽細胞に、またストレスと低いO₂分圧の時には軟骨芽細胞になります。
これに対して、骨折の牽引作用と高いO₂分圧が持続する場合には、線維芽細胞の増殖がおこって、線維組織が形成されます。
O₂分圧は、局所の血流の多少に依存している。また上皮小体ホルモンは、破骨細胞の生成と活性を刺激して骨の吸収をうながし、血中のCaレベルを上昇させます。
一方、カルシトニンは骨の吸収過程を減退させるとともに、また骨の生成をうながす方向にも作用するようです。
外仮骨の内部には、毎常軟骨が生成されます。これは血液供給量の少ない個所でみられるほか、骨表面にある骨形成細胞が、胎生期の軟骨膜の直系の子孫であることにも由来しています。
したがって、外仮骨のカラーの発育が良好な時には、骨表面にしっかり付着した骨小柱、カラーの最外層において増殖中の骨形成細胞、およびそれらの間にあって境界不明瞭のまま両者につらなる軟骨の3層が、互いに入り組んでいます。
骨折部の不動化が不十分な時には、仮骨の生成量が多い。