家畜における中毒は有毒植物によるものが最も多く、次いで鉱物毒です。
調査によれば東亜で約900種を算し、比較的種類の少ない本邦でも300種近く達します。これらの分類はいろいろな点からなされますが、中毒の診断や治療から考えると、毒成分の科学的分類から入ることが最も実用的です。
植物成分は大別して一般成分と特殊成分の2に分かれ前者は炭水化物、蛋白質、油脂類などで、後者はアルカロイド、配糖体、揮発油、樹脂、苦味質、ビタミン、酵素等で、生理作用を現すものは主として特殊成分に属します。
家畜に対してはアルカロイド、配糖体などの他毒蛋白質、鞣酸、無機塩類、油脂、蛍光性色素などがあります。
アルカロイド
アルカロイドAlcalod(植物塩基)とは植物体中に存在する含窒素有機塩類の総称で、現在判明しているものは植物の種類24科、総数では250余で、この中化学構造式の明瞭なものは140余、不詳110余です。
また、これを化学構造より分類すると次の通りになります。
1.Phenyl thylamin誘導体:例、Tyramin、Mezcalin、Ephedrin
2.Pirrolidin誘導体:例、Hygrin(コカ草)、Cuskhygrin(コソ葉)
3.Pyridin誘導体:例、Coniin(ドクニンジン)、Arecolin(ビンロウ樹)、Lobelin(ロベリア草)、Piperin(コショウ)
4.Tropan誘導体:例、Atropin(チョウセンアサガオ)、Cocain(コカ草)、Scopolamin(チョウセンアサガオ)
5.Chinolin誘導体:例、Chinin(キナ皮)、Cytisin(キンレンカ)
6.Isochinolin誘導体:例、Kotarnin、Hydrastin、Berbelin(オオレン)、Papaverin(ケシ)、Narootin(ケシ)
7.Phenanthren誘導体:例、Morphin(ケシ)、Chelidonin(クサノオオ)、Sinomenin(ツヅラフジ)
8.Purin誘導体:例、Kaffein(チヤ)、Theobromin(カカオ豆)
9.Imidazol誘導体:例、Pilocarpin(ヤボランジ草)、Allantoin(カスタニ皮)、Ergothionin(麦角)
10.Indol誘導体:例、Evodiamin(ゴジュユ)、Harmalin Physostigmin(Eserin)(カラバル豆)
11.Cholin誘導体:例、Muscarin、Neurin、Betain
12.構造不明のもの:例、Aconitin、Curarin、Ergotoxin、Strychinin、Brucin
アルカロイドの分布
アルカロイドは隠花植物、裸子植物および単子葉植物に少なく大部は雙子植物に含有します。
すなわち、毒菌のあるものにムスカリンMuscarin、麦角に麦角塩基、イチイのタキシンTaxin、麻黄のエフェドリンEphedrinならびに単子葉植物中のシュロ科、ユリ科、キツネノカミソリ科などの少数のみで他はほとんど雙子葉植物、特にケシ科、アカネ科、ウマノアシガタ科、メギ科、ツヅラフジ科、ナス科、マメ科、キョウチクトウ科等に存在します。
しかし植物中最も種族の多いキク科には極めて少なく、シンケイ科、イバラ科、ラン科等の芳香を有する植物には全く発見されないのです。
また同科、同種、同族あるいは全く同一植物と看做されている植物でも含有するものと、しないものがあって、これは他の原因に左右されるものと考えられています。
同一アルカロイドが科を異にして分布することは少なくベルベリンのウマノアシガタ科、ツヅラフジ科、ヘンルウダ科、メギ科およびマメ科の或種に見出され、カフェインのツバキ科、ムクロジ科、アカネ科、アオギリ科等に存在することは例外とされます。
これについては、原形質の分解産物が唯一の過程によって生成されるアルカロイドは種々の植物に見出されますが、数段の過程を経て始めて生成するようなものは唯一の植物あるいは近似植物の少数のみに存するものであると考えられています。
これに反して同一植物中に数種のアルカロイドを混在する場合は頗る多く、例えばケシに25種、キナ皮に24種等ですが、これらは互いに関連し、化学構造式も近似のものです。
しかしこの場合最も多いものを主アルカロイドと称し、他を副アルカロイドと称しています。
アルカロイドの性質
(1)アルカロイドの大多数は炭素、水素、窒素、酸素より構成されますがニコチン、二コインのような酸素を含有しないものがあり、又、稀には硫黄を含むものもあります。
(2)アルカロイドは総て塩基性で酸と結合すれば塩を形成します。
しかし遊離のものは一般に結晶性または無晶形の個体ですが、ニコチン、スパルテイン、ペレチェリンのような液状のものもあります。
(3)一般に苦味が強く普通は無色ですが、コルヒチン、ベルベリンのように著色する場合もあり、またヒニン塩基のように蛍光を発するもの、ヘリドニン塩基の燐光を呈する特殊なものもあります。
(4)アルカロイド塩基は稀薄水溶液で種々のアルカロイド沈降試薬によつて水に難溶性化合物あるいは複塩を形成し沈澱を生ずる特性があり、これはアルカロイドの証明や治療に当たって重要な事項です。
(5)アルカロイドは或種の試薬によって特殊な著色反応を呈するため、これによって既知のアルカロイドを検出することができます。
アルカロイドの生理作用
アルカロイドは一般に少量で生理作用の強烈なものが多く、たとえば阿片アルカロイドの麻酔鎮痛、アトロピンの瞳孔散大、ストリキニーネの強直作用などです。