診療時における中毒家畜は、一般に比較的重症となったものに遭遇し、直ちに対症療法を実施しなければならないことが多い。
すなわち、一般療法の実施は一に対象となった家畜の病状によって決定されるものであり、この場合は先ず対症的に処置しついで上記のように原因療法に着手するのが順序です。
中毒症状中重要なものは循環器、体温降下、呼吸器、中枢障碍および疝痛、痙攣、麻痺などです。
これには心臓衰弱、血管中枢、末梢血管の障碍があります。
(a)心臓衰弱に対してはカンフル、ストリキニーネ、アドレナリン、カフェインの皮下または静脈内注射です。
(b)血管中枢を興奮させるには、直接的のものと間接的のものとあります。
前者はカンフル、ストリキニーネ、カフェイン等を使用し、後者は反射的に興奮を起こすため醋酸、エーテルのような臭剤や芥子泥のような皮膚刺激剤などを用います。
(c)末梢血管の一時的麻痺にはアドレナリン、亜硝酸アミールを使用します。但し何れも効果は一時的であるから反覆投与の必要があります。
重症のもの殊に多くの中枢性血管運動神経麻痺毒は末梢血管の拡張および新陳代謝の低下によって体温降下を来たします。
故に体の温包、四肢には樟脳精などを塗り摩擦しあるいは胸腹部に温芥子泥を施し、血行および呼吸の改善に努めなければなりません。
呼吸中枢を興奮させるにはアトロピン、ロべリン、カンフル剤などを使用し、小動物にあつては酸素吸入、人工呼吸を併用します。
興奮鎮静のためにはモルヒネ、臭素剤、スコポラミンなどの皮下注射、痙攣には抱水クロラール灌腸、クロロホルム吸引などを行います。
疝痛には重症に対しモルヒネ剤の皮下注射、軽症には粘滑剤にモルヒネを伍用します。
脳充血には冷罨法、瀉血を施します。
全身療法
既述のように各種栄養液(生理的食塩水、リンゲル液、ロック液)ならびに輸血の適用は、毒物の希釈乃至排泄に対し有効であるのみならず、全身の変調を招き障碍された体部機能に対し有効であるのみならず、興奮を与える一の全身療法です。
しかし、ここに注目すべきことは肝臓の機能です。
元来肝は体内における解毒作用に対する最も重要な臓器であり、その機能は肝細胞内のグリコーゲン量と密接な関係があります。
したがって各種中毒の場合、インシュリンを注射してグリコーゲン量を高めあるいは生理的含有量を保持させようとすることは極めて合理的な方法であり、また同様の意味より高張ブドウ糖の併用も有効です。