calcium disodium ethylenediamine-tetra-acetateの略でEDTAにカルシウムの入ったもので、重金属(鉛、バナジウムなど)と醋酸を作り、尿から排泄するので、これらの解毒薬または放射性物質の排泄剤として登場した金属イオン封鎖剤です。
すなわち大動物は本剤6gをブドウ糖食塩液500ccに溶解し、皮下または静脈に注射し数日間連用します。
また、小動物では本剤0.5gを同様の液250ccに溶かして注射しますが、1シリーズ4日間とし7日を経て第2回シリーズに用いる方法がよいとされます。
1シリーズの第2~4日は0.5gを2分し、0.25gを生理食塩液10ccに溶かして皮下注射し、他の0.25gを蛋白水解物(アミノ酸溶液)125ccに加えて静注します。
Ca EDTAは体中でそのCaが鉛と置換して不溶性にし解毒するので、本剤の投与後数時間で尿中鉛濃度が急激に上昇します。
これは奪取された鉛が尿から排泄されるためです。
以上のように毒物に対しては一定の解毒薬があり、中毒の治療に当たっては原因となった毒物の本態を把握しないと適確な処置ができない。
したがって中毒を疑う疾病に対しては極力その原因を探求すべきですが、有毒植物の場合は鉱物毒と異なり毒成分も多様であるから簡単に決めることができません。
そこで、次の事項を提唱しています。
すなわち、毒物が植物毒のときは先ずその成分が科学上何れに属しているかを調査し、次いでそれに対応した解毒剤を決めます。
植物毒に対する解毒薬は不明なものが多く、現在ではアルカロイドおよび配糖体の一部です。
したがって、アルカロイドに属するものならば前述のようにタンニン酸あるいはヨード、ヨードカリウムを、配糖体ならば各種の酸化剤を用います。
これらの用法は次の通りです。
普通0.5~1%溶液を内用または胃洗浄に用いる。
内用の場合は、馬500cc、牛1000cc、小動物では1食匙位を3~4時間おきに与え胃腸内の毒物を順次に解毒するのです。
応急の場合は、番茶、柏、櫟、忍冬、楢類の樹皮煎汁、柿渋などを応用します。
(ヨード、ヨードカリウム液)ヨード1.0g、ヨードカリウム2.0~5.0g、水100ccを作り用法は前項に準じます。また、ヨード丁幾約40滴を水1lに溶かしたものを用いてもよい。
毒物を被包し、吸収を防止、または緩徐させると共に消化器粘膜の損傷を防ぎ且つ腸壁よりの吸収を妨げるために使用されます。
その主要なものは澱粉、葛粉、アルテア根末、アラビアゴム等の植物性成分ならびに牛乳、卵蛋白、粘液などですが、牛乳はザクロ根皮中毒には油類のように溶解吸収されやすくするから禁忌です。
本剤の利点は無害というよりも寧ろ一種の栄養剤を兼ねるため1日数回の連用に対し少しも差支えないことです。
中毒の処置に際し、吸着剤の適切な使用は重要であり、特に初期には必ず実施しなければなりません。
また毒物摂取後、たとえ長時間を経た場合であつても尚消化器内の毒物残留を考え投与するのが常識であることを忘れてはいけません。
吸着剤は毒物を吸着して吸収を妨げるために使用するもので無毒となるわけではないから、一度吸着された毒物も永く消化器内に留まるときは徐々に吸収されます。
すなわち、吸着結合も胃腸内では腸粘膜および腸液の機能ならびに内容物質によって可逆的に作用し、被吸着物質の一部が吸着剤より腸管内で徐々に離れて吸収されるのです。
故に速やかに腸内より排泄させるためには更に下剤を処方すべきです。
吸着剤としては珪酸アルミ、木炭末、獣炭末、カオリン、膠状水酸化鉄、白陶土、滑石などですが、その吸着能には著しい相違があります。
木炭末は最も広く使用されますが、その製法や純度、夾雑物の種類によって効果に著差を来し、極純の無灰活性炭が最強の吸着能を有します。
獣炭末(血炭末)も亦普通に使用され、メルク製獣炭末が有名です。
これは相当量の灰分を含有していますが、吸着力の優秀なこと及び科学的に無関係の吸着剤で表面的活性物質はもちろん、電解質と非電解質を問わずまた、酸アルカリに関係なく総ての液質を吸着するといわれています(但しこれには異論もあって(+)性吸着のみで(-)性吸着なしとするもの、叉は少数において異例があり硝酸ナトリウム、臭剝、硝剝は(+)吸着であり、食塩、硫酸ナトリウム、硫酸カリウムは(-)吸着で、塩化カリウム溶液は濃度の比較的高い時は(+)ですが、稀薄溶液では(-)を示すという)。
カオリン、膠状水酸化鉄、白陶土などは(+)または(-)イオンの一方のみ吸着するものです。
故に吸着剤の使用にあたっては大量入手の可能な木炭末、獣炭末で且つ効果の適確なものを選ぶべきですが、急を要する場合は木炭、消炭を粉末として使用することも一の便法です。
吸着剤を胃洗浄に使用する場合は1~5%浮遊液を用い、内服の場合は相当多量を水に混ぜ数回投与することが肝要です。
毒物を酸化して無毒とするため酸化剤を使用します。
この主なものは、0.1%過マンガン酸カリウム液、または500~1000倍の過酸化水素液の胃洗浄、内用、灌腸、10~20%チオ硫酸ナトリウム液の注射および内用、ビタミンCの注射、グルタチオン製剤の注射は効があります。
これらの適応症は配糖体に関する植物毒、青酸、アルカロイドのうちモルヒネ、ストリキニーネなどの中毒です。
これに属するものは毒物に拮抗するものですが、実際には範囲が極めて少ない。
例えばモルヒネとアトロピン、ムスカリンとアトロピンのようなものでアトロピンはモルヒネに対し、モルヒネはアトロピンに対する。
故にこの拮抗作用は両側(交互)ですが、一部は間接的のものもあります。
モルヒネの麻酔作用は脳におけるアトロピンの興奮作用と直接拮抗し、アトロピンの興奮作用はモルヒネの心臓における麻酔作用と間接に拮抗します。
また、アトロピンはピロカルピン、エゼリン、ムスカリンおよびニコチンの解毒薬です。
臭素カリ、抱水クロラール、クロロホルム、コニイン、クラーレはストリキニンおよびクロトキシンの解毒薬で、亜硝酸アミールは麦角の血管収縮作用に拮抗し、カフェインはモルヒネ、クロロホルムおよび酒精の拮抗薬です。