科学的ならびに物理的解毒法
これに属するものは受容した毒物を分解するか若しくはこれと化合して毒性を無毒とするか叉はその毒力を減少するものならびに粘滑包摂剤、吸着剤などを利用して毒物の吸収を防止する方法です。
中和または無毒物質に変ずるもの
もっとも簡単なものはアルカリと酸との中和力によって無毒性とするものです。
すなわち水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムなどに対する硫酸、塩酸、硝酸、醋酸などです。
食塩は銀属中毒に用いますが、これは塩化銀を生ずるからです。しかし、昇汞中毒には禁忌です。
その理由は食塩昇汞に変じ可溶性を増加し中毒作用を助長するからです。
鉄剤を砒素の解毒薬とするのは難溶性の砒酸鉄に変ずるからで黄色血滷塩を銅中毒に用いるのは無害なフェロシャン銅を生成するためです。
銅塩類は燐中毒の主薬とし、酸化マグネシウムおよび炭酸マグネシウムは酸の解毒薬としますが、マグネシウム塩類として無毒にするためです。
ヨード、ヨードカリは総てのアルカロイド解毒薬ですが沈降させて無毒に化する作用があり、また金属中毒に用いますがこれは金属を可溶性に変じて体外へ排泄させるためです。
クロームカリをヨードあるいはヨードホルム中毒に用いればヨードカリを生じる。硫黄および硫化水素を水銀、鉛、吐酒石、砒素などの中毒に用いると不溶性の硫化金属を生成します。
硫酸および硫酸塩類を鉛中毒に用い不溶性沈殿物として硫酸鉛を生じ、石炭酸中毒に用いてフェノール硫酸カリウムを生じ、石灰中毒に対しては硫酸石灰を生じます。
また総ての石灰塩類は修酸中毒の特効薬ですが、これは不溶性の修酸石灰を生成し無毒とするからで、修酸の体内石灰分奪取を防止し、且つ体内石灰分の欠乏を補うのに役立ちます。
タンニンおよびタンニン含有の植物はアルカロイドに対する主要な解毒薬でこれは難溶性あるいは不溶性の鞣酸化合物を生じるからで、また吐酒石、鉛、銀、硫酸鉄などに対してはタンニン酸金属塩として沈澱するため解毒の作用があります。
アンモニウム、アルカリおよび過マンガン酸カリウムは蛇咬、虫刺の局所解毒剤です。
オゾンを含む古いテルペンチン油を燐中毒に用いると燐酸を生じます。卵白は重金属に逢い蛋白化金属を化生し、また酸に逢えば酸蛋白質に変じ夫々解毒します。
カルシウムおよび粘土は金属中毒、明礬およびタンニン中毒に用い、脂肪はカリおよび酸の中毒に使用されます。
澱粉はヨードの解毒薬であり、木炭末はアルカロイドおよび金属の解毒薬です。
チオ硫酸ナトリウム(ハイポ)(Na₂S₂O₃・5H₂O)は重金属あるいは青酸に対して有効な解毒薬で、家畜には10~20%溶液1l内外の静脈、皮下注射を行います。