甘藷黒斑病の診断
先ず本病の発生時期を考え、原因となる罹病甘藷あるいは剝皮を給与したか否かに就いて充分問診することが大切です。
これは容易のように見えてなかなかむずかしいことです。
病畜に就いては臨床上呼気のサツマイモ醱酵臭と肺炎様症状ですが、初期には一般症状がさほど重篤でないのに呼吸速迫して著しい呼吸困難を示すことです。
剖見では諸種臓器、特に肺の出血性炎症の劇甚なことですが、確実な診断は第一胃に於ける罹病甘藷片の存在です。
剖見
本病の剖見上最も特異とみられるものは諸臓器における出血で、肺をはじめ心及び心外膜、肝、腎、脾、膵、肺動脈、気管、肋膜下、胃腸の充出血ならびに肺水腫、肺気腫です。
肉眼的所見の主なものは先ず第一胃と第二胃の境界部粘膜は稍々血液に富み、出血斑点があり、第四胃は一般に血液に富み赤色を呈し、諸所に集簇した微細の出血斑があり、粘膜は溷濁する。
小腸の漿膜下血管は樹枝状に充血し、切開すると内容が暗赤色で、粘膜も暗赤色を呈し、点状の出血斑を散発します。
また大腸粘膜は暗赤色を帯び、肺は割面暗赤色で点状出血斑があり、肝は腫大し、点状出血の散布があります。
腎、膵にも同様の変状を認め、胸膜、心嚢表面に多数の出血斑があり、心外膜殊に肺動脈外膜下および横縦溝に沿い多数の微細な出血斑を密布します。
心筋は紫赤色を呈し、実質内に出血を認めます。肺は退縮不全で血液に富み、肋膜下に少数の点状出血を密発し、気管内には泡沫が混ざる汚赤色の液を多量に含有し、粘膜は著しく暗赤色で多数の出血斑を認めます。
肺割面は血液に富み湿潤し気管および上部気道粘膜に点状出血を散発します。
組織学的所見は次のようです。
粘膜筋層および粘膜下層の肥厚著明で水腫を招き、毛細血管は破綻して出血、充血を見る。
出血は下部に波及し、粘膜筋層上部に達し、小出血巣を造る。
ただし、粘膜上皮細胞の欠損破壊は少ない。
粘膜の剥離が著明で上皮細胞核は消失し、粘膜筋層下の出血は竈状を形成し、血管内に多量の血液が充満し、且つ血管は拡張し血行の停止が著しい。
また血管の破綻したものは周囲に血液の浸潤があり、固有層にも出血があり、一般に水腫様となります。
小腸の所見と類似し、粘膜筋層部の出血・充血が著しい。
中心静脈周囲に存在する中心性鬱血が著明で、肝細胞に索状出血および巣状出血を認めます。その他には著変がない。
全般に亘る甚しい出血があり、健康な組織を見出すに苦しむ程です。
肋膜下に大小不同の出血巣あり、肺実質内の諸所に毛細管の拡張、血行停止、血管破綻を認め、集合性に出血竈を形成し、肺胞内には上皮細胞の剥離したもの及び赤血球を充満し、肺水腫の状著明です。
筋繊維間質は粗鬆で毛細血管の破綻、血行停止あり、出血巣を形成します。
一般に広汎な出血があり、特に糸毬体、細尿管に甚しく、破壊して全体壊死に陥り、核の消失ならびに硝子様変性をみる。
またボーマン氏嚢における内皮細胞の核消失と硝子様変性を見る場合があります。
終末細胞一般に稍々萎縮性で退行変性あり、重度の核および原形質の変性があります。
ラ氏島には著変がない。但し、終末細胞の酵素顆粒は全く欠除し全体として壊死の像を示し、同時に高度の脂肪変性があります。
血管系は各所に拡張、充血、破綻があります。
皮質または髄索内および淋巴竇内に出血浸潤極めて著明で、広汎な出血像を認めます。
以上の所見は顕著な出血と、これに随伴する急性膵臓壊死です。