黴菌の寄生によるもの ~ 甘藷黒斑病菌の有毒部位

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ビーブラスト・テキスト



甘藷黒斑病菌Endocanidiophora fimbriata(E.et H.)DaN.

有毒部位



根塊が黒斑病あるいは根腐病、蔓割病菌に侵され、苦味質を含む場合は家畜の中毒を起こします。而して黒斑病に罹ったものは次の特徴があります。


すなわち一般に乾固し殊に病患部は著しく硬化するものがあり、表面は稍々凹み、円形または不規則の暗褐色乃至斑点を表し、周縁の境界明瞭です。


特に貯蔵中に発生したものは病斑部が著しく、凹陥するを常とします。また、屢々病斑表面には微細な剛毛(子嚢殻)が密生します。


一種甘味を帯びた臭気があり、病斑部を横断すれば黒変乾固した部分の表面より約2~3mmの深さまで黒色を呈し、内部は淡黄色ですが空気に触れると暫時にして黒変します。


斯のように甘藷は極めて特徴のある病斑部を形成するから、他の病害と区別されますが、唯その初期病斑は往々黒痣病と誤認されやすい。


しかし、黒斑病は皮下組織まで侵されるに反し、黒痣病は表面に止まり決して皮下組織を変色することがない。


また根腐病の被害部は黒色を呈し稍々黒斑病に類似しますが、病斑部の表面には黒斑病に見られるような剛毛状突起がなく容易に判別し得ます。


ただし乾燥状態では黒斑病でも子嚢殻の形成が不良です。


本菌は生活植物を侵害する場合は強い病原性を示し、甘藷根塊に対しては傷痍または枯死部より容易に侵入しますが、また無傷健全な組織からも侵入して貯蔵甘藷を侵します。


これに就いては、植物の部位によって差があり、幼弱な茎に対しては表皮を貫通して侵入します。即ち分生胞子より生じた菌絲は直ちに表皮外壁を貫通して表皮細胞腔内に入るか、または一旦角皮下に潜し然る後、表皮外膜を貫通して細胞腔内に侵入します。


稍々長じた茎、葉に対しては表皮貫通を行わず気孔より侵入し、附傷せぬ根塊に対しては皮目より侵入し外表の木栓層を貫通しない。


また細根ではその根端である根冠を破って侵入し根の側面からは侵入し難い。


以上にように茎葉根は何れも被害を受けますが、地上部は殆ど発生せず、これは生長緑色茎葉に本病が発生しても極めて早期に防衛木栓層を生じ自然治癒するためであるという。


また、正常の甘藷に比し床藷には本菌の生育が不良で甘藷蔓には極めて繁殖するが苦味質はほとんど生成されず、なお馬鈴薯にも感染しますが、その程度は弱く苦味質もない。


また煮た藷や生藷の摺込みに本菌を接種しても苦味質が生成されぬから、苦味質生成の条件は生甘藷塊であり、新藷は貯蔵藷より苦味質の生成が少ない場合があり、これはある生理的条件によって左右され、且つ温度や湿度などの外的条件によっても異なり、例えは繁殖の良好なるときは却つて苦味質の生成が少ない。


これらは澱粉およびその分解産物たる糖類の量によるもので、この毒性を有する苦味質および褐変物質は病竈の内部およびその周辺の侵害を阻止する一種の防衛的分泌物であろうと推定し、またこの苦味質は被害部中乾物生で5~8%生成されるという。


本菌はまた甘藷の生育期間を通じ芽条、苗、根塊に発生し、特に地下部を侵しますが苗床ではふつう地下部に発生するから、初めは外観的に病苗を区別することができない。


ただし被害の進行したものは健苗に比して葉色淡く且つ生育が劣るから識別し得ます。而して更に進行すれば苗の茎下部に黒色の小斑点を生じ、次第に病斑が拡大して往々茎を取り巻き、所謂黒脚症状Black shankを呈します。


本菌の寄生植物は甘藷以外、ヒルガオ科植物、すなわちアサガオ、ヒルガオ、マルバルコウソウおよびマメ科、ホモノ科中甘蔗、イネなど又はブナ、パラゴムなどです。

キジと水鳥 仲田幸男
キジと水鳥 仲田幸男 昭和46年12月20日 ASIN: B000JA2ICE 泰文館 (1971)
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