催吐薬と制吐薬 ~ 嘔吐の機構



元来、嘔吐は経口摂取した有害物質を吐出するという生体防御機構の一つだとみなされている。嘔吐によって胃液が体外に出ることは、体液からH⁺とC1⁻だけが失われることを意味します。従って嘔吐が反復して起る症状は極めて危険な状です。

動物種差



魚類より高等な動物は嘔吐が可能であるが、哺乳動物でも全ての動物種が嘔吐する訳ではない。犬、猫、豚、猿は容易に嘔吐するが反芻動物では稀です。


馬、齧歯類、兎類は嘔吐しない。

嘔吐運動



嘔吐は延髄の嘔吐中枢が興奮して起る反射性の筋肉運動です。嘔吐は次のように進行します。


①通常、まず嘔吐前駆症状があり、唾液分泌の亢進や不安げな行動が認められる。


この時期はヒトでは吐き気を感ずる時期で悪心(nausea)と呼ばれる。


②嘔吐中枢の興奮によって腹壁筋と横隔膜が強度に収縮する。この結果、胸腔は陰圧になり、腹腔は陽圧になる。


横隔膜が収縮した状態では食道と胃が折れ曲がって胃内容の吐出が不可能です。従ってこの運動は外見上は嘔吐と区別できないが、吐物(vomitus)の排出がない。この運動を空吐(retching)という。


③数回の空吐を反復した後に突然、腹壁が強度に収縮して腹腔圧を著明に高める。この時の腹腔圧は大動脈圧より高い。


このため横隔膜が胸腔内へ深く押し込まれ、胸腔内圧も陽圧になる。


この状態では胃と食道が直線的になり、食道も弛緩状態になる。この結果、腹腔の強い圧を受けた胃内容が口外に吐出する。


嘔吐運動に随伴して胃の弛緩や十二指腸の逆蠕動も起るが、副次的反応にすぎない。

求心路



胸腔、腹腔のどの部位に加わった刺激によっても嘔吐の求心性刺激になると言われていますが、感受性の高い部位は次の部位です。

咽喉頭



咽喉頭の刺激は迷走神経を経て嘔吐中枢を興奮させる。


この系の反射は極めて速く、刺激が始まってから反射成立までの潜伏期は秒単位です。

十二指腸



経口的に硫酸銅を与えると胃や十二指腸の粘膜を刺激して嘔吐させる。


この反射の求心路は主として迷走神経を通リ、副次的に内臓神経をも通る。


この系の反射は遅発性で、潜伏期が10分から1時間にもなります。

CTZ



嘔吐中枢への最も重要な求心路は最後野の受容体からの経路です。


第四脳室低の後方両側に最後野(area postrema)と呼ばれる脈絡叢があり、この部位の両側部分を細長く除去するとアポモルヒネなどによる嘔吐が起らなくなる。


しかし胃腸粘膜刺激による嘔吐は影響されない。従ってこの部分に嘔吐の受容体があるとしてCTZ(chemoreceptor trigger zone)と名付けられた。


化学受容体はこの部位の毛細管内壁にあると考えられ、また受容体から嘔吐中枢までの距離は近いので、血中の催吐物質によって容易に嘔吐反応が惹起される。


経口投与された毒物のうち胃粘膜を刺激して嘔吐させる物質は刺激性物質など一部の物質に限られるし、また反射成立までの時間は速くても10分以上が必要です。


吸収性の毒物では胃腸管から吸収されれば、最後野は血液脳関門外であるから急速にこの部分に到達して化学受容体を刺激して嘔吐させる。


この系では経口投与してから5~30分で嘔吐が起る。CTZの物質特異性は低く、多くの薬毒物によって興奮する。


中枢性催吐薬と呼ばれる薬物の殆どはCTZに作用し、中枢神経系に作用することは少ない。現在までのところ、嘔吐中枢に直接作用して嘔吐させる化学物質は知られていない。


なお、CTZから嘔吐中枢までには1~3回ニューロン交代があり、少なくともその一つはドパミンを伝達物質にしているらしい。

動揺病(motion sickness)

動物に加速度が加わると眼振(めまい)、運動失調(ふらつき)、嘔吐を主徴とする動揺病(加速度病)が発症することがある。

この嘔吐では内耳の三半器官が受けた刺激が小脳に伝えられ、CTZを経由して嘔吐中枢に伝えられると解析されている。

キジと水鳥 仲田幸男 昭和46年12月20日 ASIN: B000JA2ICE 泰文館 (1971)
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