湿疹(eczema)
表皮に紅斑、丘疹、膿疱、結痂、びらんが単独にあるいは合併して発生する湿疹のうち、外因性に発生するものは比較的まれですが、著しく不潔な乳房を手当てせずに放置した時にみられることがあります。
また疥癬の感染が原因になることもあります。
これらに対しては、乳房を清潔にして、化膿機転があれば抗生物質、サルファ剤などを局所に使用し、あるいは疥癬の駆除薬を適用します。
飼料が原因となって、内因性に発生する湿疹はめずらしくない。紅斑性の湿疹が多いですが、なかには膿疱性から結痂性になるものもあります。
飼料中の原因物質を同定できることは稀れですが、馬鈴薯、馬鈴薯の皮、ぶどうの皮、ビートパルプの残渣、油粕、魚粉、残飯、その他種々の餌を大量に食べたあとで、球節から飛節さらに乳房の皮膚にかけて、広範囲に湿疹が生じた例が多数報告されています。
したがって湿疹がくりかえし発生する場合には、飼料を検討して原因と思われるものを除去することが大切です。
局所療法としては化学療法薬、コルチコステロイド、抗ヒスタミン薬などを使用します。
乳房の感染性皮膚炎(infectious dermatitis)
牛、羊、山羊の乳房には、毛包炎、痤瘡、癤など、毛包、皮脂腺の炎症、化膿、壊死が発生する。これらは不潔、皮膚表面の外傷、昆虫の刺創、あるいはアレルギーに継発するもので、原因菌としてはブドウ球菌の分離されることが多い。
したがって、乳房を清潔にすること、搾乳を衛生的に行うこと、および抗生物質などによる化学療法によって処置する。
これらの感染症にFusobacterium necrophorumの感染が重なると壊疽が生ずることがあります。乳房の皮膚の一部が暗色ないし黒褐色を呈して乾燥し、その周囲を化膿性の分解線が取り巻く。
乳頭に生ずる時は、はじめに生じた黒い斑点が急速に乳頭全体にひろがり、それがさらに乳頭洞から乳管を経て重度の乳房炎をひきおこすことがあります。壊疽には乾性壊疽と湿性壊疽が区別されます。
乳房および乳頭の皮膚の腫瘍(neoplasms)
牛の乳房と乳頭にはしばしば乳頭腫(いぼ、乳嘴腫)が形成される。
年を取った成牛には少なく、2歳未満の若い牛に多い。
時にはハナヤサイ状のグロテスクな外形を呈することがあります。主としてウイルスに起因するもので、搾乳器および搾乳する手を介して伝染します。
器械搾乳の障害となり、また若い牛では発育を妨げる。なお乳頭に発生する乳頭腫のなかには伝染性でないものも報告されています。
乳頭腫は乳房、乳頭にかぎらず、顔面、腹壁、四肢など体の他の部位にもしばしば発生します。乳頭腫(いぼ)の治療法としては切除、結紮、焼灼などの外科的処置がもっとも有効です。必要があれば、硬膜外麻酔あるいは腰椎側麻酔と会陰神経の伝達麻酔を併用する。
乳頭腫からつくった自家ワクチン、胎児の皮膚と臓器エキス、牛肝抽出液、抗ヒスタミン薬、塩酸プロカイン(静注)などの投与も試みられています。
しかし、若い牛に発生したものは特別の処置をほどこさなくとも自然に消滅することが多い。また成牛でも一部の乳頭腫を切除すると、残余の腫瘍が自然に退行して消失することがしばしば経験されている。