精巣上体の疾患・精巣および陰嚢の損傷


精巣上体の疾患(diseases of the epididymis)



精巣上体炎(副睾丸炎)epididymitis:精巣炎(睾丸炎)に継発しておこることが多く、各種の動物において、後天的に稀れにみられます。


原因菌としては、ブルセラ菌、化膿桿菌、ブドウ球菌、レンサ球菌、大腸菌、緑膿菌などが知られています。さらに、外傷に起因するもの、犬ジステンパー、特異性牛伝染性精巣上体炎によるもの、マイコプラズマが精管から血行、リンパ行を介して侵入して、発症したものなどがあります。


また地域によっては、羊の精巣上体炎が多発して、不妊の原因となっていることが知られています。臨床的診断としては触診により、精巣上体の尾部の硬結、肥大、精液瘤spermatoceleによる腫大をみることによる。


重症となると精巣から精液の排出が妨げられ、予後も不良で、この際は早期去勢が必要となります。


その他、先天的異常として、輸出管の奇形、精液瘤(精液水瘤、中腎管遺残物に精液貯留したもの)、精巣上体における二次的精子肉芽腫の形成、牛におけるWolff管の無形成、Wolff管またはMüller管の嚢胞および奇形がある。


原発性腫瘍は少ないとされますが、犬において稀れに転移性腫瘍があるとされます。

精巣および陰嚢の損傷(injuries of the testes and scrotum)



精巣のみの挫傷は解剖的構造から、その発生は比較的少ない。大動物では、馬における蹴傷、牡牛同士の闘争時の多発性打撲傷、それに暑熱寒冷最中の輸送、過度の重労働、さらに趾蹄疾患時の転倒などがいろいろ重なるといっそうその症状が重くなる。


犬の場合、交通事故、咬傷、打撲により急性ないし進行性の病変をおこし、全身性感染病、栄養的欠陥が合併するとしばしば雄性不妊の原因となります。


陰嚢の損傷は牛、馬などでは有刺鉄線に引っ掛けたもの、柵越えの外傷その他の事故などが考えられ、犬では闘争、咬傷、交通事故などによるものがみられる。

症状



損傷の程度もさまざまで、精巣実質(間質を含む)の出血、挫傷程度のものから、被膜(白膜)が破れ実質のはみ出したもの、さらに実質の裂開を生じたものもあります。


一般に外来の器械的原因では、陰嚢皮膚の挫傷、裂創が多く、まれに精巣まで外傷のおよぶものがあります。

処置



挫傷程度のものは安静、鎮痛剤の投与、冷却などの応用で十分ですが、陰嚢皮膚は被刺激性が強いので、消毒薬の選択に十分留意する必要がある。


一般に当初、温食塩水、抗生物質軟膏、撒布剤などが使用されますが、犬などの場合舐められないように注意します。陰嚢の比較的表層の外傷はまず洗浄し、特に辺縁切除を丁寧に行い、細い糸で埋没縫合を行う。


ヨードチンキのような強い消毒薬は禁忌で抗生物質入りの洗浄剤、スプレーなどがのぞましい。精巣損傷も伴う陰嚢皮膚の裂創がある時は、特に十分に辺縁切除を行い小動物か大動物かによって予後を判定し、感染の予想される時もしくは繁殖供用などに関係のない時は、精巣摘出(去勢)を行う。


術式は一般去勢法に準ずるが、特に感染化膿防止と排液に留意して必要なものは縫合する。

キジと水鳥 仲田幸男
キジと水鳥 仲田幸男 昭和46年12月20日 ASIN: B000JA2ICE 泰文館 (1971)
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