脳の疾患は大別すると、先天性脳疾患と後天性脳疾患に分けられ、いずれも脳神経外科の一般的検査と脳神経の機能検査が行われたのちに、それぞれ適切な治療処置がほどこされます。
人医学の頭蓋、脳疾患の神経外科では、損傷、腫瘍、脳血管性疾患、先天性奇形、不随意運動ならびに疼痛などが重視されていますが、ここでは獣医外科領域で取り扱われている主な疾患について記載します。
脳神経機能の検査法
中枢神経系の各部には、それぞれ特有の機能があるので、ある特定部の病変は特定の症状を現すはずですが、実際には病変が特定の一部に限局することが少ないことと、また障害に対して他の部が補助的にはたらくため、簡単な外部所見から中枢の病変部を推定することはかならずしも容易でなく、また誤診を招くことが少なくありません。
中枢性の神経障害は家畜では外科病の範囲に属するものは少なく、多くは実験外科学的に症状と部位の関係がつきとめられているにすぎません。
もちろん、損傷、腫瘍などの原因で外科学的中枢神経疾患が見られることもありますが、なかには予後不良のため精密検査が行われない場合がある。
しかし、少なくとも臨床症状から中枢の異常部位を推定する努力はつねに払わなければならない。
家畜における中枢神経の症状と部位との関係をごく簡単に表せは下記のようです。
もちろん、下記に示された簡単な臨床所見のほか、反射の検査や特殊検査により障害の部位の決定ができる場合は少なくない。
家畜における中枢神経の症状と部位との関係(主として外科的または実験外科的所見)
部位
終脳
大脳皮質
基底核
異常の原因(外科的要因)
損傷、腫瘍、感染
検査の要点・症状
実験的な皮質除去でも歩行、平衡、咀嚼などに異常はない。物を認識する能力に欠けるので飼主や食物を見ても判らない。
犬の前頭葉欠損では性格が攻撃的、衝動的となるのは下部反射弓の抑制解除による。前頭葉の運動領域の傷害では運動麻痺はおこらないがplacing reactionが弱くなり、hopping reactionがなくなる。
側頭葉では、ある種の癲癇psychomotor epilepsyをおこす。この場合は恐怖、緊張などの後ではげしい発作を示す。
後頭葉の異常では部位により瞬目反射を失ったり、皮質性盲目などを示す。
基底核:臨床的には家畜ではあまり明らかにされていない。
備考
基底核:人体では尾状核、レンズ核などの異常としてパーキンソン病、アテトーゼ、舞踏病などが知られています。
部位
間脳
視床
視床下部
異常の原因(外科的要因)
腫瘍など
検査の要点・症状
家畜では発生例が少なく、痛覚異常は判りにくい。
視床下部:この部は自律神経の中枢として、また下垂体の上位中枢として全身の代謝、内分泌などに関係しているので、この部の傷害では体温調節、水分代謝、糖代謝、脂質代謝、性機能調節などが異常になり、臨床上、渇を訴え、過食、肥満、多尿などが見られる。
備考
人体ではこの部の異常で知覚痛覚異常(過敏)がある。
部位
後脳
小脳
異常の原因(外科的要因)
小脳:腫瘍、損傷、時に中耳炎など。
検査の要点・症状
小脳:犬の小脳のみの除去では震せん、筋の異常緊張、運動失調、歩様異常、調節過度などが見られます。
前庭神経核の障害が多く同時におこるが、この部はその障害される局所の位置によって、頭の傾斜、眼球震盪、肢筋の過度の緊張、円形運動、あるいは伸筋群の弛緩などをきたす。
備考
小脳:前庭神経核には、下、側、中、後の4個が区別される。
部位
延髄
異常の原因(外科的要因)
腫瘍、損傷
検査の要点・症状
呼吸、血管運動中枢、その他8対の脳神経の中枢として、さらに多くの神経伝導路の通路として重要であり、障害症状は部位によって一定しないが、大きい傷害では死亡することが多い。
備考
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