膀胱の先天性異常(congenital abnormalities of the bladder)
胎児時代の尿索、さらに臍膀胱靱帯がなお管状に残留し、その一端が膀胱と交通すると尿が貯留し、嚢腫となるか、または尿索瘻となる。
先天的膀胱破裂の例が新生駒に知られています。
膀胱損傷(膀胱破裂)injuries of the bladder(rupture)
皮下損傷(挫傷):
皮膚損傷を伴わない膀胱の破裂ないし損傷をいい、交通事故による外部からの鈍性打撲、骨盤骨折などによる尖鋭骨片の刺傷、内視鏡などの挿入による損傷、出産時の損傷、病的膀胱の自然破裂などが考えられます。
腹壁、腸管の損傷と合併することが多い。通常、腹膜内破裂と腹膜外破裂に区分され、腹膜内破裂では、腹囲膨隆、比較的すみやかに腹膜刺激症状が出現し、尿性腹膜炎、敗血症を発し、予後も不良です。
腹膜外破裂では膀胱周囲、会陰部に尿浸潤をきたし、限局性鈍痛を示し、あまり急激には顕著な臨床症状を認めないことがあります。
感染によりフレグモーネなどを招くが、時に小裂孔では腹膜脂肪組織下に永く包み込まれることがあります。
開放性損傷:
膀胱付近の開腹手術、外部からの開放性腸管損傷などに合併しておこる。できるだけすみやかに観血的処置がなされなければなりません。
感染予防に十分留意すべきです。
尿石症(urolithiasis, urinary calculus)
尿石は通常、牛、犬、猫、まれに馬、羊にみられる。尿石の存在はかならずしも臨床的に異常を惹起するものばかりではなく、死後剖検の際にはじめて発見されることも多い。
しかし、尿石は感染をおこしやすく、腎盂腎炎、腎膿瘍、水腎症を発し、腎機能が著しく低下するか、あるいは激しい疝痛症状を発する時は、外科手術の適応となるものです。
結石の存在部位によって、腎結石renal calculus、尿管結石ureteral calculus、膀胱結石vesical calculusと尿道結石urethral calculusに分けられる。
原因:
次のような因子が組み合わさって、尿石が形成されます。
牛については濃厚飼料の過剰と粗飼料の不足によるCaとPの摂取量のアンバランス、蓚酸、珪素の含量の多い植物の採食、飲水不足や暑熱乾燥時の発汗による尿の濃縮、硬水の飲用、尿路の感染、ビタミンAの欠乏、エストロジェンの持続的作用による上皮細胞の剥離または壊死などです。
肉用に肥育される去勢牛、羊にしばしば尿道閉鎖が発生するのは、濃厚飼料の多給とともに、早期の去勢によって、尿道の発育が不十分なために尿道が細いことも関与しています。
尿石:
元来尿中には単独の溶液ならば、当然沈澱するはずの高濃度の溶質が保護膠質の存在によって溶解状態に保たれている。したがって、尿は沈澱という点では非常に不安定な溶液です。
そこでpHの変化、尿の濃縮、蓚酸や珪素の大量摂取などがあると、剥離上皮細胞あるいは壊死組織が核nidusとなって溶質が沈降し、濃厚飼料の過剰と粗飼料の不足は尿中のムコ多糖類を増加させて沈降物の凝縮をうながすため、ここに尿石が形成される。
尿石の組成は牛ではリン酸アンモニウムマグネシウム(ストルバイト:struvite)が主で、その他炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、珪酸塩もあるとされます。
馬は炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、豚はリン酸アンモニウムマグネシウム、炭酸カルシウム、リン酸マグネシウムなどです。
犬では主にリン酸アンモニウムマグネシウムにカルシウムアパタイトや重炭酸アパタイトを混じたストルバイト結石と称されるものが一般的ですが、シスチンおよび尿酸塩結石もみられます。猫ではリン酸アンモニウムマグネシウムの砂粒が多く生成される。
症状:
小動物、犬の場合、犬種によってたとえばコッカースパニエル、ペキニーズ、ダックスフンドなどに比較的多く発生し、シェパード、ボクサーなどには発生が少ないとされます。
性別では雌雄同じようにみられるといわれる。部位では臨床的には膀胱、尿道にみられることが多い。年齢的には各年齢のものにみられます。
病歴としては、排尿障害ないし無尿症、腹部膨大、時に血尿、尿毒症の症候、一般的に元気消失、食欲不振、血尿、動作遅鈍、疝痛症状、腎部の圧痛腫大、膀胱部の触診異常がみられる。
以上の臨床所見の他、カテーテル挿入、尿検査所見の検討、X線検査などを参考とする。去勢牛・羊では尿石が尿道のS状彎曲(sigmoid curvature, 牛、羊)または虫状部(尿道突起Proc. urethrae, 羊)につまって尿道閉塞が発生する。
これは尿道の発育が悪く、特にこれらの部位において尿道が狭窄しているからです。尿石によって尿道閉塞がおこると、疝痛に似た症状が現れ、陰茎を牽張し、しばしば排尿を試みるが、血尿が滴下するに止まる。
陰毛、内股面に結晶が付着する。尿毒症の症状が現れる。直腸検査または鉛製深子によって探診する。閉鎖している尿石を除去できない場合には約48時間経過すると、尿道穿孔が生じ、尿が腹壁、包皮の皮下に拡がり重度のフレグモーネおよび毒血症を発する。
また膀胱が破裂することもあり、この場合は急に苦悶しなくなるが、食欲廃絶、全身衰弱をきたし、腹囲膨大、尿毒症の症状が現れる。
膀胱破裂は馬に多く、2~3日で死亡する。
なお去勢牛では包皮内に結石が形成され、これが包皮口をふさいで尿道穿孔に似た症状を呈することがあります。