筋の一端あるいは両端は、骨または靱帯との結合部において、結合織性の淡白色、光輝ある強靭な索状の腱、時には広く薄い膜状の腱膜aponeurosisに移行する。
腱は平行に走る膠原線維束から成り、各線維束は多数の原線維fibrilから成ります。
腱線維束を包む結合組織の中には線維芽細胞(腱細胞tendon cell)が含まれる。
腱の外周を包む結合織性の膜は腱周膜peritendineumです。
血管は束間の結合織中を縦走するのみで分布にとぼしいが、やや太い腱の深部には、比較的大きい血管と神経が走る。
腱が四肢の関節部を通過する個所では、腱鞘が円筒形をなして腱を取り巻き、緩衝の役を果たしています。
腱の疾患のうち、家畜外科学の対象となるものは、主として四肢の屈筋および伸筋の腱です。
腱の損傷(injuries of tendons)
外傷をおこす種々の機械的原因、転倒、滑走あるいは保定の際における筋の急激な収縮などが原因となって、腱は損傷を受けます。
開放性損傷と皮下断裂に分けられます。
前者は当然、他の局所組織の損傷を伴い、感染の状況に注意する必要があります。また皮膚創の大きさと在下組織の損傷はかならずしも一致しないから、十分腱の損傷の程度を探索する必要があります。
後者は腱が皮膚に比して弾力性にとぼしいため、外力によって、皮下断裂をみることが少なくない。特に腱が緊張または収縮している時には断裂がおこりやすい。
前肢の深屈腱、浅屈腱、繋靱帯(馬、犬-いずれも球節の過度の伸展あるいは保定時の騒擾による)、第三腓骨筋の腱(馬、後肢の過度の伸展)、アキレス腱(馬、牛-滑走または転倒による飛節の過度の屈曲、犬-交通災害)、大腿二頭筋の腱膜(痩せた牛-滑走)に発生します。
腱の開放性損傷の予後は重篤で、ことに馬では不良です。
損傷の軽重はその範囲、局所の損傷の程度および感染の有無によって左右されます。ことに感染がある場合には、化膿性の腱周膜炎が継発し、排膿が困難なために、腱の壊死、さらに断裂を招くおそれが大きい。
一般に皮下断裂のうち、大動物に発生した完全断裂は治癒困難です。
不全断裂の場合は、種々治療を試みる場合があります。小動物では、手術療法が可能であって、予後は良好です。
治療法
動物の種類、損傷の程度及び損傷腱の種類によって治療法を決定します。
大動物では経済的理由から、単に保存的治療を行うにすぎないことがしばしばあります。すなわち、馬では吊起帯を装着して起立させ、治療用鶴首蹄鉄swan-necked shoeを装着して球節を支え、これによって腱の断端の接着をはかる。
これに対して、小動物では手術療法が行われます。しかし創傷の感染を防ぎ、あるいは抑えることが肝要であるから、まず創を清浄にし、排液法を講じ、また局所的および全身的に化学療法をほどこした上で腱の縫合を行います。
腱の縫合suturing of tendonには絹糸、不銹鋼線などを用い、Lange法、Wilms法、臥褥縫合法、中村法などがあります。
薄い扁平な腱の縫合には、両断端を重ねて縫合する。経過が良好な時は、小動物では2~3週間、大動物では8~12週間で癒合します。腱周膜組織の増殖による。
術後は副子を応用して、術部の固定をはかる。
治療後の癒着を防ぐためには、腱の癒合を待ってなるべく早く患肢の運動を開始します。腱が機能を再開する時は、断端を埋めた線維性結合組織の構造には、改溝reconstructionがおこって線維はストレスの方向に並び、腱類似の構造に転換するものです。