中毒の症状
家畜中毒に対する詳細の実験は少いが、多くの報告や、治験例を綜合すると次の通りです。
すなわち、DDT、BHCは家畜に対しても神経系統を侵し震戦、痙攣、蹌踉がみられ、この現象は脊髄から上の中枢神経系に対する毒作用によるもので、長期間DDTを摂取した犬、猫、猿などに就て脳髄の電気描写の検査や病理解剖の結果では特に小脳における変化が見られます。
またDDTはクロル炭化水素としての薬理を示し、致死量では心筋に対し交感神経系の刺戟に鋭敏ならしめることが死の原因となり、同時に一種の肝蔵毒としても作用します。
中毒動物は一般に含水炭素の代謝が甚しいですが、これは二次的に来る痙攣に基くものです。
前記した犬の経皮中毒の実験では、先ず食欲の減退、脈の細数と結代、視力障害、搐搦および局所麻痺に次で全身麻痺がみられ、その他肝臓部の圧痛があり、剖見では肝臓の壊疽、心臓血管の出血などを示します。
牛における主徴は、食欲不振、元気沈衰し、高度の下痢を伴い、呼気に特臭があるので本剤の中毒診断に役立つ。
同時に流涎や流涙があり、歯根部、舌、硬口蓋の肥厚ならびに黄色疣状物の発生、角膜炎を来す。
次で削痩、体表の乾燥、4肢の強拘と蹌踉を示し、時に頸背や肢間の皮膚に硬化、肥厚があり、また口粘膜、鼻鏡の潰瘍をみることがあります。
乳牛では、乳量の減少と乳汁の凝固が目立つ。
更に変化すれば腰麻痺のため起立困難となり、体温の上昇、鼻鏡の乾燥、眼結膜の充血ならびに甚しい樹枝状充血を見、最後は全身衰弱の下に斃れる。
石油溶液の撒布による猫の症状は短時間で呼吸の速迫、震戦、搐搦を現わし、次で4肢の強拘、蹌踉、苦悶、全身痙攣を来す。
DDT、BHCなどの中毒は摂食直後症状が軽く見えますが、4~5日間に非常に悪化して死の転帰をとる場合がおおい。
これは本剤が体内で殆ど分解せず、そのまま体内に貯蔵されているからで、予後の診断には極めて慎重を要するわけです。