DDT・BHC ~ 中毒の原因

ビーブラスト・テキスト


中毒の原因



DDTやBHCは人畜に対して毒性は弱いといわれますが、これは農薬として使用する濃度という条件であつて、過量の場合や薬剤の状態によって障害を及ぼし、DDT、BHCともに家畜の自然中毒は少くない。


中毒の原因は粉剤を直接舐めたり、撒布後の余った薬剤を誤って与えたり、農作物に撒布して直後摂食したり、外寄生虫駆除のため体表に撒布したものを舐めたりする経口的のものと、石油溶液の噴霧による経皮中毒ならびに肺より吸収されて被害を受けます。


本剤による中毒は牛、馬、山羊、犬、猫、雛など家畜全般に亘り、幼弱なものほど抵抗力が弱く、また小動物ほど重症です。


第1に経口的の場合は飼料の種類によつてかなり経過が異なります。すなわち、DDTおよびBHCは油類に溶け易い性質があるから、脂油の多い飼料を与えた後に摂食されると吸収が速いわけです。


多くの実験からみるとDDTの致死量は下記の通りです。

DDTの致死量



マウス

致死量g/kg

0.15~0.25




ラット

致死量g/kg

0.15~0.25




モルモット

致死量g/kg

0.30~0.50




致死量g/kg

1.3以上




致死量g/kg

0.3~0.5




致死量g/kg

1.0




山羊

致死量g/kg

約1.0




致死量g/kg

0.3以上




γ-BHCの致死量については報告はありませんが、前述の通りラットに対する毒性を比較すると、DDTに比べて約1/10位です。


生体に入ったDDTは殆ど科学的変化を受けず、体内の貯蔵脂肪中にかなり長い時間貯蔵され、僅かの小部分のみが化学変化を受けて排泄されますが、この場合の貯蔵量は油と共存している方が乾燥粉剤よりも多いものです。


また体内のDDTは乳汁に分泌され、山羊に毎日1gずつ与え、これで作ったバターをネズミに食べさせたら、そのネズミに害があり震戦などの症状を現わしたという報告があります。


これは乳汁を生産する家畜にとつて公衆衛生上注意を要するわけで、DDTなどを畜舎や搾乳場ならびに牛体に撒布するときは、乳汁がDDTによって直接汚染しないように心がけなければなりません。


第2は経皮的の場合で、外寄生虫などの駆除に当って石油溶液による中毒が多い。


粉剤は安全ですが、撒布後強く摩擦すると局所の炎症や脱毛を招き、また外陰部、肛門、眼、口などの粘膜に充血炎症を起します。


DDTおよびBHCなどの経皮中毒を見るため、DDT10%およびBHC2%の混合粉剤をパスタとして犬の腰部に塗布する実験を行った結果、4日目に定型的の中毒症状を現わし、それを洗い落すと約1週間で回復することから経皮中毒が可能であることが判りました。


そして石油溶液では粉剤に比べ甚しく吸収が容易で、生体には危険であるから、濃厚溶液が生体に附着した場合は、直ちに石鹸などで洗い落すことが肝要です。


従って、石油溶剤は専ら畜舎、器具、便所、堆肥場などに用いるべきで、畜舎、鶏舎の消毒時には動物や飼槽などを他に移して行うようにしなければなりません。


第3は農作物に撒布したDDT、BHCの残効で、特に飼料作物に対する問題です。


DDTは元来、耐久性があり毒性が長く持続することが特徴で、このため農薬としての利用範囲が広いわけです。


したがって薬剤撒布後、家畜に安全な経過日数を知る必要が生じます。元来撒布された薬剤の効果は、薬自身あるいは展着剤や作物などの性質はもちろんのこと、天候、雨水、風速、乾湿などの自然条件によつて大いに異なるので、一概に決めることが困難な関係上、これに関する満足すべき試験報告はほとんどありません。


唯自然中毒発生例から見て、現在の使用薬剤では一般的に15~20日間を経過したほうが安全です。


DDTやBHCを水稲に奨励された時代には稲藁の毒性が問題になりましたが、使用濃度が割合低いのと撒布後相当の日数があり、且つ降雨期を過ぎるので、これによる中毒例は殆どありませんでした。

キジと水鳥 仲田幸男
キジと水鳥 仲田幸男 昭和46年12月20日 ASIN: B000JA2ICE 泰文館 (1971)
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