(a)DDT溶液
石油、キシロール、アセトンなどの有機溶剤にDDTを溶解させたもので、普通5%石油溶液が用いられます。
本剤は主として衛生薬剤としてノミ、シラミ、南京虫、ハエ、ダニ、蚊を始め、衣類、敷物、書籍などの害虫駆除に、噴霧あるいは浸潤させることがおおい。
農薬としては石油そのものの害があるため使用されません。
(b)DDT粉剤
250 メッシュ以上の微粉となった白色の粉末で、塩素の臭があり、水に不溶です。本剤はカオリン、珪藻石、ベントナイト、タルク、クレーなどを混入してDDT含有量2.5、5、10%のものがあり、農用には2~5%、防疫用には10%のものを使用します。
田畑の撒紛には反当り3~5kg、種子消毒には1升に40g位の割合で混ぜる。
(c)DDT水和剤
DDTと若干の湿展剤の他大部分はカオリン、タルク、ベントナイト、クレーなどを混ぜた白色粉末で、水和性があります。
したがって本剤に水を加えるとDDTが微粒子状になって懸濁性と湿展性がよくなり、附着性や固着性が粉剤より優り、接触と毒剤的効果を挙げます。
本剤は20、40、50、70%などのものがあり、農用の他、浸透力や揮発性の点から防疫用として車内、畜舎、屋外などの消毒に適します。
農用では、有効濃度がDDT 0.02~0.1で下記の割合で溶かしてあります。
●使用濃度(%)
0.02
●水1斗に対する薬量(g)
18
●使用濃度(%)
0.03
●水1斗に対する薬量(g)
27
●使用濃度(%)
0.04
●水1斗に対する薬量(g)
36
●使用濃度(%)
0.05
●水1斗に対する薬量(g)
45
●使用濃度(%)
0.1
●水1斗に対する薬量(g)
90
(d)DDT乳剤
原液はDDTをベンゾール、キシロール、石油、樟脳油、エステル油などに溶かし同時に乳化剤を加えた赤褐色乃至暗褐色で、透明または半透明の稍々粘稠な液体ですが、水を加えると乳濁液となります。
乳剤は水和剤に比べるとDDTが溶かされた状態にあるので、動物体に附着浸透し易く、したがって接触効果が大きい。
本剤には10、20、30%があり、価格の点から殆ど農用に供されます。使用DDT濃度は0.02~0.1%で、下記の割合で溶かしたものを用います。
●使用濃度(%)
0.02(1000倍液)
●水1斗に対する薬量(g)
18
●使用濃度(%)
0.03(600倍液)
●水1斗に対する薬量(g)
27
●使用濃度(%)
0.04(500倍液)
●水1斗に対する薬量(g)
36
●使用濃度(%)
0.05(400倍液)
●水1斗に対する薬量(g)
45
●使用濃度(%)
0.1(200倍液)
●水1斗に対する薬量(g)
90
(e)DDT袋用防除剤
梨、桃などの果実にかける袋紙に、DDT乳剤を塗って害虫の侵入を防ぐもので、亜麻仁油、石油などを含んだ油にDDT5%を溶かした黒褐色の液体です。
(f)DDT除虫菊混合剤
DDTはアブラムシに効果がなく、ピレトリンは有効なので、この2者を混合したもので、次の2種があります。
DDT5%、ピレトリン0.05%の混合粉剤です。
DDT15%、ピレトリン1.3%を含む乳剤で、ふつう1000倍溶液を用います。
DDTの毒性と殺虫力
DDTは一般に冷血動物に対する毒力が強く、温血動物には概して弱い。
昆虫類に対しては概して毒性が強く現れ、ハエの足にDDTが触れると、その1対の脚が痙攣し始め、更に次の1対の脚に伝わり、次で口器、翅、腹部が順に侵されます。
これは神経終末に作用するためで一種の神経毒と見做されています。
一体昆虫は外皮によつて保護されていますが、上皮の最上層はリポイドからなる薄い上角皮で、その下にキチン質の他リポイド、リポプロテインを含むキチン角皮があります。
したがってDDTの毒作用は上角皮とキチン角皮にあるリポイドに溶け込み、これらを通過して神経終末に侵入するのですが、DDTでは構造式中、トリクロロメタン原子団がリポイド可溶性成分であり、残りのクロロベンゾール原子団が毒成分です。
DDTは昆虫の体表面から吸収され、所謂接触毒として作用するのみならず、経口的に消化管からも吸収されて毒剤となります。
本剤の毒としての特徴は、空気中で分解変質せず、毒性が長く保たれ且つ又残留性の強いことによります。したがってピレトリンやγ-BHCのように速効的ではなく、効果を現わすまでに比較的長い時間を要します。
また昆虫に対しては初め興奮期が著明で、盛んに運動したり飛び廻ったりします。
昆虫類は薬剤の感受性が幾分異りDDTはハエ、蚊、ノミなどに、γ-BHCはシラミに、クロールデンはゴキブリによいといわれています。
また、蜜蜂や蚕に被害を与えるので注意を要します。