有機塩素剤・DDT
(1)DDT. Dichloro-diphenyl-trichloroethaneまたは2,2bis(p-chloro-phenyl)-1,1,1-trichloroethane
DDTは科学的物質として既に1847年ドイツのツアイドラー氏によつて合成され、当時の方法が現在でもその製造の根幹をなしています。
本剤が有力な殺虫剤として注目されたのは1940~1944年スイスのガイキー会社ロイゲル、マーチン、ミューラー氏等の報告で、その後1943年アメリカで工業的に製造されるようになり、外国へは1946年アメリカによって移され一躍有名になりました。
DDT性状
DDTはDichloro-diphenyl-trichloroethaneの頭文字をとつた略名で、科学上では2,2bis(p-chloro-phenyl)-1,1,1-trichloroethaneといわれる塩化炭酸水素です。
分子式はC₂HCl₃(C₆H₄)Cl₂となります。
純粋なものは融点108.5°~109℃、無色無臭で微細な軽い針状結晶ですが工業品は稍々灰色を帯びたものや白色があり、幾分塩素の臭があり、異性体の混在が予想され融点は88℃以上に変つています。
純粋化合物(P-P´)は殺虫力大ですが異性体(o-p)は前者の約1/5です。
DDTは水に殆ど溶解せず、石油類、植物油などの有機溶剤にはよく溶けますが、その種類によつて溶解度がかなり異なります。
科学的には安定で、揮発性がないから日光や貯蔵によく耐えますが、アルカリ金属塩に作用すると効力を失います。
これは容易に塩酸1モルを放つて1-Dichlor2,2-(p-chlorophenyl)-ethyleneになるからで触媒が存在すると一層顕著で、鉄、アルミニウムがその働きをします。
即ち脱塩酸して生じた物質はDDT異性体(o-p)と同じく殺虫力を減ずるのです。