
ふつう牛といわれるのは真正家牛亜属の家畜牛のことで、これにホルスタイン、ジャージーなどの品種(Breed)がたくさんあります。おなじ真正家牛亜属のうちに種を異にしてゼビュー(Zebu)、インド瘤牛(Indian Zebu)などがあり、ことに後者は、俗にインド・ウシ(Indian cattleまたはHumped cattle)といわれ、インドに多く重要な家畜です。
この中にも多くの品種があります。
暑熱に対する抵抗性が強く、ダニ熱(ダニが媒介する病気)に対しても抵抗力をもっている。熱帯、亜熱帯の牛にこの特性を導入するための交配に広く用いられています。
したがって、ふつうの牛との間に雑種も作れるし、また、そのできた雑種は繁殖能力をもっています。(後述)
バンデング(Banteng)はジャワやボルネオに野生し、とくにバリ島では馴化されて、家畜として飼われています。バリ・ウシ、またはジャワ・ウシと俗称されています。
ふつうの家畜牛との間に雑種もでき、その雑種は繁殖能力をもっています。
ガヤール(Gayol)とガウル(Gaur)は、ともにインドに野生し、ふつうは人間に利用されない。
ヤク(YacまたはYak)は、ヒマラヤ山腹からチベットに広がり人間によく利用されています。長毛におおわれ、雪中でも寒さを意としない。ガヤール、ガウル、ヤクはともにふつうの家畜牛との間に雑種ができますが、その雑種は繁殖能力をもたず、不妊です。
アメリカ野牛(American bison)、ヨーロッパ野牛(European bison)はともに野生です。とくに前者をBisonといい、またアメリカでは誤って、これをBuffaloといったので、いまでもそのようにいわれています。
中世期までは、ヨーロッパ各地にいましたが、1775年プロシアで殺されたものを最後に現在はいない。アメリカでは19世紀の初めまでは、野生としてかなりいましたが、現在では特別なところに少数保護されているだけです。
ふつうの家畜牛の雌に、この野牛の雄を交配してできたものを、カタロ(Cattalo)といいます。これは、寒さに対する抵抗力も強く、性質温順で、使役に利用されました。
ただし、この一代雑種には繁殖能力はありません。
起源
牛が家畜化されたのは、約10,000年前といわれ、新石器時代(Neolithicera)(B.C.10,000?~200)とされています。
B.C.5000年頃と称される人類のスイス湖棲時代に、すでに食肉牛として小型な牛がいたらしい。湖棲民族の遺跡に家畜の骨が発見されていますが、その場所の特徴をとって、そのころの家畜を泥炭牛、泥炭羊などといっています。
ここの小型の牛というのは、すなわち泥炭牛(Peat cattle)のことです。
また、その時代に最も文化の進んでいた西アジアのメソポタミアやエジプトなどにおいては、すでに農耕用としての牛が飼われていたようです。
したがって、牛の最も古い発祥地はおそらくこれら西アジアの文化諸国であろうと想像され、その年代もおよそB.C.8000年頃であろうと推定されています。
さらに、バビロンで見出されたもっとも古い法律書、ハムラビ(Hammurabi)に牛がのっていることは有名です。古代ギリシャ・ローマ時代には、牛はすでに重要産業の一つになっていたらしく、牛の頭が貨幣に刻まれており、牛が取引の基準になっていた様相がうかがえます。
なお、東南アジアの牛は、西アジアからヨーロッパに広がった家畜牛に刺激されて、それより少し遅れて家畜化されたものらしく、それらは初めから牛耕用の犂(すき)と結付き、農業と関連して現れたものとされています。
現在の家畜牛(Bos taurus var.domesticus GMELIN)の起源は、その野生のものが家畜化されたとされており、その野生形態のものを広く原牛(Bos primigenius)といっています。
これは、有史時代まではヨーロッパ、西アジア、北アフリカなどに広く分布していたらしいですが、いまは絶滅していて化石として知るのみです。
原牛の遺骨はその発見された場所により、個有の名がつけられています。
例えば、中央ヨーロッパ出土のものを総称して(Bos primigenius BOJANUS)といい、北アフリカ出土のものは(Bos opisthonomus)および(Bos primigenius HAHNI)です。
これらのうち代表的なものは、ヨーロッパから出土された(Bos primigius)および(Bos brachy-ceros)と、インド、中国、ジャワなどから出土された(Bos namadicus:アジア原牛ともいう)などです。
古骨として出土された牛の分類は、主として頭骨の形状によりますが、(Bos primigius)と(Bos brachyceros)とは、その頭骨の形が異なり、前者は細長く、後者は短く、幅広いものです。
この事実から、ヨーロッパの牛の起源も上述の2種であって、現在のホルスタイン、エヤーシャーなどは(Bos primigius)から、ブラウン・スイス、ジャージーなどは、(Bos brachyceros)から由来したとされたことがあります。
しかし、現在では、(Bos brachyceros)を(Bos primigenius)の1つの地方的形態とみなし、ヨーロッパの家畜牛は、すべて(Bos primigius)から家畜化されたとみなされています。
前述のごとく、インド、南アジア、アフリカには現在家畜牛としてゼビューがいますが、この起源がインドその他から出土された(Bos namadicus)といわれています。
そして、中国、韓国、日本などのアジアの家畜牛は、このゼビューと(Bos primigius)との雑種から生じたとされています。また、蒙古牛などは(Bos namadicus)の1分枝である(Bos tranomongohans)をその起源とするものもあります。
いずれにしても、(Bos namadicus)もまた(Bos primigius)の1地方形態と考えられているので、結局、世界の牛の起源は、すべて(Bos primigius)からでているとみなしうるでしょうというのが現在の考え方です。
日本における歴史
本邦の地質時代の遺跡から牛属の角が発掘された例があります。
しかしどの系統の牛かわからない。ただし、その後に住んでいた石器時代の人間は、牛をもっていなかったと言われています。牛を飼いだしたのは、大和民族の出現以降とされています。
恐らく、インド、マレーなどのアジア系統の牛が南交、中支、北支(すべて中国)および韓国をへて、日本の中国地方ことに山陰と九州に入いったものでしょう。
また1部は台湾、沖縄を経て九州に入ったであろうと推測されています。
応神天皇のときに牛の貢ぎ物があったという記録があります。また顕宗・仁賢の天皇(490年頃)のときには、よほど牛馬の類が多かったのか、【牛馬野を被う】という言が残っています。
欽明天皇(539~571年)のとき鮮牛(韓国の牛)の輸入があり、また、皇極天皇ころ(642~645年)には牛耕が行われています。孝徳天皇(645~654年)のとき呉人(中国人)常福という人が搾乳法を伝えています。
また、天智天皇(661~671年)は牛馬の繁殖を奨励し、当時は明らかに肉食していた記録があります。天武天皇(672~686年)のときから仏教の影響が強く、肉食禁断の令がでました。
文武天皇(697~707年)は各地に牧場をつくらせ、牛馬に関する法規を発令しました。
元明天皇(707~715年)のときは、山城国に酥(そ)または酪(らく)を貢すべき乳牛の戸50戸を設けたとあります。酥または酪とは、牛乳を煮つめたものです。
聖武天皇(724~749年)は良畜の保存を講じたらしい。
また、仁明天皇(833~850年)のころから牛車が利用されています。宇多天皇(887~897年)のときに各地に牧場が作れられており、醍醐天皇(897~930年)のときには酥に関する規定がありました。
平安末期から徳川幕府成立までは戦国時代もあって、牛の増殖は衰退しました。
徳川時代に入り、家康、家光とも牛を奨励しました。吉宗(8代将軍)は享保年間(1717~1736年)にインドから白牛3頭を入れ、千葉県嶺岡に飼わせて牛酪(バター)を作らせました。
しかし牛の飼育が近代的な畜産の一端としてその様相を示しだしたのは、明治以降です。洋牛の輸入、政府の積極的な奨励、各種法規の制定などがあり、牛は次第に頭数を増やしました。
しかし本来日本農業は、耕種、ことに水田作を主としたものであり、農業上の牛の重要性は役牛として以外はなかなか認識されませんでした。
畜産物の消費が明治以降ようやく増大し、それにつれ乳肉の需要も高まり、牛は漸次、農業経営上にも重要な地位を占めるようになりました。
ことに昭和の初めに政府の行った有畜農業の奨励が効をを奏して、無畜農家は漸次少なくなり、牛の農業経営上の地位はいよいよ確立的となりました。
それに加えて第二次大戦後は国民の保健上における畜産の役割もようやく認識され、それにつれて牛も漸次役畜から用畜的へと発展しました。
ことに近年は1戸あたりの飼養頭数が乳用牛、肉用牛とも漸次増加し、いわゆる多頭化の様相がみられています。
品種の分類法
用途により、肉用種Beef breed、乳用種Dairy breeds、乳肉兼用種Dual purpose breeds、役用種Draft breedsなどに分ける。これがふつうの分け方です。
また、分布区域の立地条件によりヨーロッパの牛の品種を、草原種Steppenrassen、山地種Gebirgsrassen、低地種Niederumgsrassen、などに分けることがあります。
また外観により長角種Longhorn breed、短角種Shorthorn breed、無角種Polled breedに分けることもあります。