蹄癌とは、蹄真皮の乳頭体(絨毛)に発する悪性の慢性蹄真皮炎です(病理学において取り扱われる真性腫瘍の癌腫ではない)。
一般に肉叉に多く発しますが、肉底・肉壁・肉冠にも波及することがあります。
蹄癌の原因
踏創による蹄真皮の損傷あるいは慢性蹄叉腐爛の治療、失宜によって乳頭体を刺激する場合に、その異常な肥大贅生をきたして蹄癌になります。
蹄癌の症状
一般に蹄叉またはその周囲に肉芽様の小隆起を生じ、出血しやすく、その基部に悪臭のある灰白色の分泌物がみられます。
この慢性蹄皮炎の結果、逐次、線維性組織が毛筆状に肥大贅生(角化不全)をきたし、蹄叉の乳頭体の5~10倍に達するものがあり、また病機はしばしば肉底・肉壁、さらに肉冠におよぶことがあります。
蹄癌が蹄叉から蹄踵に蔓延する場合は、左右の蹄踵が離開して、負面の最大横径が増大します。一般に、蹄病に罹患すると蹄踵は狭窄するものですが、本症のみは離開する特徴があります。
病変部は、指圧により激痛があるにもかかわらず、硬地上の常歩では、ほとんど跛行をみない。
病機が蹄底・蹄壁に蔓延するものでは、負重困難をきたす場合がおおい。
蹄癌の治療法
蹄叉のみに発したもので、手術的に処置できるものは、予後は良好ですが、蹄底・蹄踵・蹄壁などに蔓延したものは、一般に不良です。
蹄叉または蹄底における限局性の蹄癌に対しては、まず洗浄消毒後、表面を被う角質を除去して患部を露出させます。
次いで掻爬法あるいは焼烙法を用いて贅生物を周囲の健康組織とともに摘出したのち、その創面にヨードチンキを浸した厚いガーゼをあて、その上に蹄底圧迫包帯をほどこします。
同時に化学療法を行い、滲出液がなくなるまで毎日包帯交換を実施し、爾後患部の清潔・乾燥および合理的な削蹄をはかり、再発の防止につとめます。
蹄癌に対して従来、組織硬化薬あるいは腐蝕収斂薬および強力な消毒薬の塗布が試みられていますが、いずれも効果は確実ではありません。