ブユ(black flies, buffalo flies) ~ 形態・発育および習性・害・防除

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ブユは小さな吸血性の昆虫で、日本では約40種が知られています。


ブユの多発地帯では農作業にも影響をおよぼし、夏季において朝夕のころ農作業をしている農民や家畜がブユのたえまない来襲によって農作業ができないほどです。


そのため、生活の知恵として農作業中、腰にぼろ布を撚ったものを下げ、これに火をつけ煙を出してブユの来襲を防いでいる光景が各地でみられました。


家畜も人と同様にブユの吸血のため落着かなく、その生産性はいちじるしく減退します。また、ブユは人畜のオンコセルカ病やアヒルのロイコチトゾーン病のvectorとして有名です。

家畜を襲うおもな種類ならびに分類上の位置


双翅目:Diptera
長角亜目:Nematocera
ブユ科:Simulliidae
オオブユ属:Prosimulium
キアシオオブユ:P.yezoense
ブユ属:Simulium
ウマブユ:S.takahashii
ヒメアシマダラブユ:S.arakawae
ツメトゲブユ:S.iwatense
アシマダラブユ:S.japonicum
アオキツメトゲブユ:S.Aokii
ニッポンヤマブユ:S.nacogapi


ブユの形態


ブユの成虫

体は比較的小さく(体長1~5mm)、頑丈な体をしていて、胸背は隆起してずんぐりした形をしています。

体色は一般的に薄暗い色をしていますが、黄色やオレンジ色をしているもの、黒、白その他の色が帯状になっているものがあります。

頭部には単眼はなく、複眼は大きく、雌の複眼は左右に離れていますが、雄の複眼ははなはだ大きく、左右の複眼は相接して合眼的です。

触角は短く、角状をしていて普通11節が数珠状に連なるものが多い。

口器は雌では発達して吸血のために用いられます。口器の吻は短く頭の長さの約半分にすぎません。吻は上唇、1対の大あご、1対の小あご、舌状体および先端に肉状の唇弁がある比較的大きな下唇よりなります。

これらは蚊のように細長い刀身状はしておらず、幅広い短刀状をしています。小あごひげは長い。

胸部は前方に向かって曲がっていて、3対の脚は太くて短い。翅は幅広くて大きく、斑紋はなく透明で、普通は無色です。

また、翅脈は種類によって異なります。

腹部は短く卵円形をしていて外部生殖器は目だたない。


ブユの卵

約0.3mmの大きさで、長楕円形をなし一端は少し太くなっていてほぼ三角形をしています。


ブユの幼虫

形は円筒形で、中央がやや細くなり尾端は太くなっていて吸盤があります。1齢幼虫は0.5mm、じゅうぶん成長した終齢(6齢)幼虫は最大約15mmです。

頭部はキチン化して多少扁平となっています。頭部の背面前方の側部に口刷毛feeding brushがあります。口刷毛は扇状に開いて流水中の食物を集めるのに用いられます。

触角は口刷毛の基部直後にあって小さい。また2、3個の不規則な眼点があります。胸部は3節、腹部は8節よりなりますが、その境界は不明瞭です。

第1胸節の腹面には円錘形の擬脚があります。また後端には後部吸盤があります。


ブユの蛹

体長3~6mmの裸蛹はマユの中に静止しています。

そして蛹の付属器はすべて体の下面に密集しています。頭部は大きく前方に突出し、中胸背はいちじるしく背面に隆起しています。

前胸背の背面前縁の両側から各1個の呼吸器が出ています。

この呼吸器は基部からただちに多数の呼吸系に分かれています。マユの形は一般的に円錐形をしていて、呼吸系の分岐数やマユの形や構造は種類によってちがう。


ブユの発育および習性



ブユは卵、幼虫、蛹、成虫というように完全変態します。


また、雄、雌とも樹液を摂取しますが、蚊と同様に雌だけは吸血もします。


しかし種類によっては無吸血性のものもありますが、多くのものは吸血によってはじめて産卵が可能になります。


吸血する動物はブユの種類によってある程度嗜好性が異なっていますが、あまり厳密ではありません。


たとえば、鳥や冷血動物をおもに襲う種類と哺乳動物を襲うものとがあります。


人に対して嗜好性の強い種類はアオキツメトゲブユ、ヒメアシマダラブユ、ニッポンヤマブユ、クロオオブユなどで、牛、馬に嗜好性の強いものはウマブユ、アシマダラブユ、ツメトゲブユなどです。


しかし、人と家畜を共に襲う種類も少なくない。


ブユは夏季成虫が活動し、飛翔距離は3~4kmあるいはそれ以上あるといわれています。冬期は多くの種類は幼虫として越冬します。


吸血時間は朝、夕に多く、一般に日中の暑いときは地上近くの草の葉の裏などで休んでいますが、日中でも吸血することがあります。


しかし、夜間は吸血しません。


ブユの吸血は蚊のように吻を皮膚内に深く刺しこむのではなく、皮膚の表面を傷つけ滲出する血液を摂取します。それで、ブユが飛び去った後でも、しばらくは血液の滲出があります。


雄成虫は羽化後、発生源近くにいて後から羽化してくる雌をとらえて交尾します。


その後メスは吸血し、2~3日後に産卵します。産卵場所は種類によって違い、水面下にある植物、石、岩などのところに雌が群れをなして集り、1ヶ所に数匹から数十匹の雌が卵塊を産みつけます。


産卵時間は3~4分、時には15分以内で完了します。さらに、産卵する時刻は夕刻あるいは早朝に行われます。


1回に100~500個産卵し、雌の生涯中に数回産卵します。


卵ははじめは白色あるいは乳白色ですが、まもなく黒っぽくなり、24時間くらいすると暗褐色ないし黒色になります。


卵はふつう2~3日で孵化しますが、長くかかるものもあります。


幼虫の生息する場所は流水で一般に流れが早く、清澄な水のところです。しかし、種類によっては、流れの緩やかな川とか滝つぼの中で生活しているものもあります。


幼虫は体の後端にある後部吸盤で植物、岩、木片などに吸着して、水の流れにさからっています。また、擬脚を使って尺取虫のように移動します。


摂食は頭部にある口刷毛を使って、水中の微生物を口の内に餌として掃きいれます。幼虫の期間はおおむね3~4週間で、6回脱皮して蛹ができます。


成熟した幼虫は口から絹糸状の糸をはき出してマユを作ります。


幼虫はマユの中で脱皮して蛹になり、蛹は餌をとらず幼虫と同じく植物、岩、木片などについています。しかし、蛹はかならずしも流水を必要としないで、静水中でも生存しています。


マユから長い呼吸糸を出して水中の溶存酸素をとっています。蛹の期間は3~7日、あるいはそれ以上です。アオツメトゲブユを例にあげて生活史をみると次のようです。

卵(約10日)→ 幼虫(1~6齢)3~4週間 → 蛹(1週間)→ 成虫


ブユの害



ブユは世界中において哺乳動物をはじめ、鳥類、冷血動物をも襲います。ブユが多数飛来すると非常にうるさくannoyance、また吸血による刺激、irritation痒みは蚊以上です。


ブユに刺された部位は出血します。家畜でもブユの大群が飛来すると、牛は採食をやめ逃げ出してケガをしたり、時には崖から転落して死亡することもあるといっています。


刺咬による傷は時には丘疹を起こしたり、小水疱を惹起することがあります。乳牛では乳頭をいためることがあります。その結果、泌乳量の減退となります。


1923年ダニューブDanube河の岸辺にいるS.columbaczenseの大群が鹿、狐、野兎をはじめ、馬、牛、羊、山羊、豚など総じて20,000頭を殺したといわれています。


またMissisppi渓谷で牛やラバに大損害を与えたともいわれています。Edgar(1953)はブユの攻撃によって鶏の産卵率は70%から20%に減少したと報告しています。


次にブユのvectorとしての害もはなはだしく人畜のオンコセルカ症、アヒルや七面鳥のロイコチトゾーン病のvectorとなっています。


また、炭疽や家禽コレラもブユが伝搬者となっています。

ブユの防除


幼虫対策

ブユの発生源対策は、幼虫対策でしょう。ブユ幼虫の発生水域に殺虫剤を散布して幼虫を駆除する方法です。

この方法は川の上流から殺虫剤を流して下流のブユ幼虫を中毒させて駆除しようという考え方です。しかし、魚介類や水質に悪影響を与えてはいけないので、使用する薬剤やその使用方法は厳重な注意を払わなければなりません。

このような環境保全という観点から使用許可になっている薬剤も限定され、低濃度、短時間接触でブユ幼虫に対して有効かつ魚毒性の低い薬剤は2、3のものに限られています。


成虫対策

古くからブユ発生地域で農作業をする人々は腰にぼろ布を下げ、これに火をつけて煙を出し、ブユの襲来を防止していました。

また、ブユに対する忌避剤はdiethyltoluamideなどがあり、人の場合8時間くらいの忌避効果を期待できる程度で、家畜への応用はわからない。

殺虫剤による成虫駆除の実験はほとんどおこなわれていません。

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キジと水鳥 仲田幸男
キジと水鳥 仲田幸男 昭和46年12月20日 ASIN: B000JA2ICE 泰文館 (1971)
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