砒素 ~ 症状(急性中毒の症状・慢性中毒症状)

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ビーブラスト・テキスト


砒素中毒の症状



砒素中毒の症状および経過は状況によつて著しく違い内用の際は先ず胃の変状を来し、次で一般症状を呈するのが常でありますが、時により胃の症状を欠くことがあります。


外用中毒の場合も亦胃の症状を発せぬ場合と発する場合があります。


また急性中毒と慢性中毒では非常に相違があります。


砒素中毒の症状は燐中毒と似た点が多く、先ず局所の刺戟作用を呈した後吸収されて諸腺心筋竝に体筋の脂肪変性を来す。

急性中毒の症状



多くの場合一定時の後に胃腸の炎症即ち嘔吐、流涎、鼻漏、粘膜の充血、腫脹、出血および粘膜上皮細胞の剥離、疝痛、便秘後に悪臭あるいは血液が混ざった激しい下痢を来し稀に血尿を伴います。


同時に動物は興奮し不安となり、露出粘膜の潮紅あるいは黄褐色を呈します。


亜急性の経過の場合は栄養障害のため身体各部の脂肪変性、出血、粘膜のカタール例えば粘膜炎を来し、牛と羊とには胸骨剣状突起の後方に蜂窩織炎症の疼痛を伴う腫脹を認め、更にこの腫脹は膿瘍に陥り第四胃に生じた瘻管と連絡し、甚しいときは第四胃、あるいは稀に第二胃がこの部に脱出することがあります。


一般症状としては末梢神経炎症竝に中枢神経系の障害に基く筋力の麻痺様衰弱の他倦怠、眩暈、失神、瞳孔散大竝に心臓衰弱等で、更に多くの場合は呼吸数の増加を伴います。


予後は急性のときは数時間、緩慢ですと1~2日間で次第に昏睡に陥り斃れます。


外用中毒の場合は局所に炎症および痂皮などを認め、次で毛細血管および細動脈の麻痺拡張による高度の血圧下降のために起る中枢神経系機能障害によつて一般麻痺のみを見る場合、および時としては烈しい胃腸炎を発する場合とがあります。

慢性中毒症状



砒素量の多い場合若しくは持続的に入るときは酸化作用抑制強きに過ぎ、体内における一種の窒息状態となり終には身体組織の退行変性を起し慢性中毒となります。


家畜では多く製鉱所付近に見受けられ、所謂製鉱瓦斯病と名づけられました。


経過は慢性の虚脱で動物は栄養不良となり著しく痩削し、皮膚は悪液性に硬化して著しく剥脱し、時に被毛、蹄の脱落を認めることがあります。


これに伴い胃腸、咽喉、結膜の慢性カタールを起し、更に慢性の咳嗽、持続性下痢、牝は生殖器障害例えば不妊、流産、産後停滞、子宮疾患、泌乳閉止します。


神経系では沈衰、知覚麻痺竝に運動麻痺を来しますがこの場合は知覚麻痺を主とし、運動麻痺が従であることは鉛中毒と反対です。


次で肝、脾、腎、心臓等の脂肪変性竝に水腫を起し遂に斃死します。


経過は長い場合は1~2年に亘ることがあります。


以上は砒素のみの中毒の場合ですが、農薬にあつては砒素剤としても他の殺虫剤、毒剤、展着剤と化合し、あるいは混用していることに注意しなければなりません。


例えば鉛、銅、弗素乃至は植物性薬剤等で従って中毒症状としては砒素そのものの作用以外にこれらの毒物の合併症状が現れます。


故にこの場合は必ず農薬としての成分を明確にしなければなりません。

キジと水鳥 仲田幸男
キジと水鳥 仲田幸男 昭和46年12月20日 ASIN: B000JA2ICE 泰文館 (1971)
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