症状
(1)山羊で中毒が軽く回復する場合は、内服後凡そ120分で食欲の減退、瞳孔稍々縮小、4肢の強拘、呼吸の促拍、鼻端の攣縮に続いて1分間に1~5回位の瞬間的全身痙攣があり、次いで食欲の廃絶などを示しますが、170分位で僅かながら食欲が回復し初め、260分後には食欲、一般症状も全般的に回復する程度です。
なお、この場合の所見の1例は下記の通りです。
アルドリン…<780mg/kg ディールドリン…150mg/kg
致死的な場合は内服後、約40分を経て突然不安となり、4肢の蹌踉を現し転倒。
起立させると歩きますが、後肢は強拘です。
約15分位で回復しました。
この場合、食欲や知覚は正常です。これは一種の前駆症状で毒物が胃内で急に接触吸収され初めた時期と推定します。
次で内服後約80分を経て突然定型的な中毒症状が現れ先ず不安、顔貌異相、泡沫性流涎甚だしく、次いで呼吸頻数不整となり(140)、苦悶、叫鳴する。
脈は浅弱で僅かながら体温の降下があり、食欲失損し、蹌踉となり4肢を開帳して体重を支えようとします。胃蠕動も減少。
但し初期には知覚は正常です。更に進むと、全身の攣縮、口唇の痙攣が現れ、尾力なく尾の反射震顫著名となり、遂に起立不能のため転倒、発症10分後に第1回の著名な全身痙攣を起こし、約3分間継続、この場合は呼吸の不整、脈の結滞、心音の不正と浅弱頻数があります。
但し眼反射はあり、さらに15、10、4、16、9、2分毎に斃死するまで定型的な間歇性痙攣が続き、動物はその度に甚だしい苦悶、叫鳴、眼球突出、脈の結滞、呼吸の頻数を現わす。
発症40分後、血液検査のため採血、45分後、著名な呼吸困難と脈の不正並びに瞳孔縮小を見、また著しい誇張があります。
60分後最後の全身痙攣があり、呼吸は極めて要力性で開口して呼吸し咬歯あり、シャインストーク氏現象現れ、先ず呼吸が停止し、次いで65秒後、心臓停止により斃死。
全経過を見るに内用後、約40分で運動失調による蹌踉が現れ、80分で定型的な中毒症状が初まり、145分後に斃死しました。
その主徴は、甚だしい泡沫性流涎と4肢の蹌踉に初まり、次いで間歇性全身痙攣の連続発作、呼吸の困難、瞳孔の縮小、その他で、これらは神経系の障害と見るべく、特に死は呼吸停止が心臓の停止に先行する。
故に本毒も亦DDT、γ-BHCなどの有機塩素化合物と同じく、中毒症状は潜伏期、(興奮)運動失調期、痙攣期、麻痺期より死に至る順序で進行し、総ての神経系の異常と之に次ぐに脳脊髄のシナップス伝達の様相に変化が起こるためと解し得ます。
しかしながら、その原因となる直接の物質あるいは作用機転に関しては、全く未知で、今後の研究に俟つべきものです。
なお、臨床上の所見について記すと下記の通りです。
●T:39.3
●P:120
●A:21
●胃蠕動:1分間に2回
●備考:–
●T:38.8
●P:140
●A:90
●胃蠕動:2分間に1回
●備考:中毒初期