植物毒中毒 ~ 酒精(Alcohol)

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ビーブラスト・テキスト


性状



酒精Alcohol(エチルアルコール、エタノール、Aethylalkohol、Aethanol.(C₂H₅OH)は醸母Saccharomyces erebisiaeの作用によって炭水化物より製し、100%のものを無水酒精、99%を純酒精、91%を強酒精、68~70%を稀酒精といい、焼酎は30~40%の酒精を含有する他、フーゼル油Fuseloil(アミル・アルコール)およびアルデヒドAldehydなどを含み、後者は酒精蒸溜の残液によります。


しかして毒作用は酒精の他フーゼル油の存在によって加重されます。


家畜中毒は通常、酒精ならびに焼酎粕類、葡萄酒、林檎酒など果実酒粕および以上の残液や澱粉製造粕の酒精醱酵したものを与えたときに起こることがおおい。


したがってこれらを飼料とする牛、豚にみられます。

症状



酒精は原形質毒に属し家畜中毒はほとんど急性で始めに脳を刺戟し後に麻痺します。


すなわち不安、興奮、狂暴、騒擾があり、粘膜潮紅、心悸亢進をみますが、軽いものは酩酊によって睡眠する。


時には色慾の亢進があり流産を起します。


後には蹌踉、眩暈、転倒、知覚脱失、ならびに一般麻痺を発し、最後には体温の降下、痙攣、搐搦、虚脱によって斃れます。


その他鼓脹および疝痛の如き消化器障害もみられます。


軽症では数時間の経過によって恢復しますが、重症の場合は24~48時間で死にます。

S醸造工場に飼養された牝牛10頭が酒精含有粕を食い翌朝1頭斃死、14頭は切迫屠殺され1頭だけが助かった。


この粕中には7%の酒精が含有されていました。


その主徴は食欲減少、蹌踉、頸の伸張、結膜および口粘膜の潮紅、呼吸促拍、咳嗽、重症では更に起立困難、搐搦、痙攣、知覚の消失です。経過は2~3時間より2日に亘る。


剖見上露出粘膜の潮紅、稀薄な衂血、暗赤色で凝固性の少ない血液、皮下織は血液に富み掌大の暗赤色斑があり、死体は総て汚穢黄色でした。


第一胃に大小不同の暗赤色斑あり、小腸は外面より見ると赤色を帯び且つ1、2の部分は黒赤色を呈します。


肝は一部蒼白で鉛色を呈し腸内容物は暗赤色で稀薄な糜粥です。肺は暗赤色で心筋は皺縮し蒼白で小さく、黒色の出血点がある。


脳の血管は黒色稀薄の血液で充たされ皮膚および体質も亦血液に富み溢血斑があります。静脈叢は膨脹し脳室は血性漿液を充たす。


(2)ほかの牛は、同様の粕を食い中毒して酩酊し蹌踉、切歯、鼓脹を見、後に頸筋の搐搦を来す。


(3)牡牛が酒精含有粕を食い興奮、凝視、蹌踉、狂暴、騒擾、転倒、起立不能に陥った。


馬:試験的中毒例では次のようです

(1)健康な馬に99%純酒精250ccを与えたところ、直ちに不安興奮し2分で倒れ騒擾し、眼球の旋転、知覚脱失で斃死した。


(1)純酒精120~180ccを与えたものは同一の症状を呈したが生存した。


(3)30~60ccの純酒精を静脈内注射し1~2分時で斃れる。しかし健康なものは70%酒精500ccを与えて一時興奮し酩酊するが斃死せず、但し熱性病に対しては毎日1~1.5ℓの純酒精を稀釈して与えることが出来ます。


体重1kg当り毎日1.~0.15ccの酒精を与えると慢性中毒を起こす。


その主徴は嗜眠、泡沫性の嘔吐あり、下痢、戦慄、衰弱、後体麻痺、呼吸困難などです。剖見は腸粘膜の発赤、出血性肝臓炎、肺充血、皮下組織ならびに筋の出血、大血管のアテローマ変性を認めます。


30~60ccの純酒精をそのまま与えると著しい興奮、嘔吐、蹌踉を発して斃れ、剖見は出血性胃腸炎です。皮下注射でも同様でした。


ただし熱性病のある場合は100~200ccの純酒精に多量の水を混ぜて与えるとよく堪える。


山羊、羊

稀酒精を漸次増量して与えると終には180~300ccの焼酎に堪えるようになる。


25ccの純酒精を稀釈せず与え、犬と同様の症状を発して斃れる。


剖見



脳および脳膜の血管は血液に富み、脳実質中に出血竈あり、脳室中には屢々多量の血液を混じた漿液があります。


腸粘膜は出血性炎症を現わし内容物も血色を帯ぶ。其他心臓および皮下織にも出血斑を認めることがあります。


血液は稀薄で暗赤色を呈します。また、胃腸内容物は酒精の臭があります。

療法



先ず酒精拮抗薬であるカフェインの注射により解毒しますが、これは同時に利尿作用によって排泄されます。


また発汗、尿路よりの排泄として生理的食塩水あるいはリンゲル液の注射もよい。其他は対症的で頭部の冷却、灌水、皮膚摩擦などを行います。


また興奮期には鎮静剤の注射、虚脱の惧あるときは興奮剤を用います。

証明



科学的には胃腸内容物の蒸溜法を行いますが、この際検体を微酸性として蒸溜すれば特異な臭気と燃焼性があり且つアルデヒード酢酸に変化するものによって識別します。


酒精にクローム酸カリK₂Cr₂O₇と硫酸H₂SO₄とを加えると深緑色を呈し、硝子鐘内に白金黒と共に置くと酸化してアルデヒードおよび酢酸を生じその臭が出る。


最も確実なものはヨードホルム反応で、蒸溜によって得た酒精溶液にヨードの一片を加え60℃に温めながら、これに苛性カリKOH液を滴加しヨードの色を消せば、アルコールの存在によってヨードホルムCHI₃の結晶を生じ検鏡すれば特異な黄色六面板状の結晶です。


この反応は鋭敏で水20000分中酒精1分の微量でも検出します。


ただしこの反応はCH₃CO-の原子団を持つAcetaldehyd、Aceton、乳酸CH₃・CH(OH)・COOHによっても反応を呈する。


然し酒精中ではC₂H₅OH以外は反応がない。

キジと水鳥 仲田幸男
キジと水鳥 仲田幸男 昭和46年12月20日 ASIN: B000JA2ICE 泰文館 (1971)
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