従来農業薬剤による家畜の被害は砒素、水銀、銅、鉛などの重金属系のものが多かったのですが、終戦を境として種々の新剤が現れ、それに伴って家畜の中毒も増加しています。
農薬の新傾向は大きく二つに分けられます。
すなわち一はDDT(1938、英)、BHC(1942、英)、クロルデン(1945、米)、トクサフェン(1946、米)およびその他の類縁化合物よりなる一連の有機塩素化合物系の殺虫剤であり、他はTEPP(1942、独)、パラチオン(1944、独)、EPN300(1950、米)、ペストックス(1941、独)などの有機燐化合物系殺虫剤です。
これらのうち2、3のものを除いては、その中毒乃至致死量や中毒症状、解毒薬、治療法などの判明しないものが多く、且つまた、有機溶剤の明示されないものもあるので、同じ薬剤にしても、それの形状についてかなりの差異を生じます。
一体、農業薬剤とされるものの中には、よく「人畜無害」というような表示をしたものがあつて、うつかりすると人と家畜には、害がないように受取られる場合が多い。
しかしこれは普通に用いる濃度では比較的害が少いという意味で、原液そのものは猛毒であり、家畜のように経口的に摂られるときは致命的なものがおおく、要は量の問題だということになります。
ですので農薬と称せられるものは全部家畜に有毒だと解釈しています。
したがって毒性が弱だから害がないとか万一中毒しても軽くすむ薬剤だと誤らないようにしなければなりません。
その好例はエンドリンで農薬としては一応弱のうちに入りますが、致死量以上摂取されると著明な症状の下に短時間で必ず死ぬし、一度発症すれば一寸治療の方法がないと思われる薬剤です。
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