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急性腹症について(Acute Abdomen, Abdominal Disease)


医学における概念



医学の外科学においては、”急激に発症して、腹痛を主訴とする疾患”を急性腹症と総称し、一般外科疾患のなかでも、とくに重要視して取り上げています。


急性腹症の大部分の原因は、腹部の感染、外傷、循環障害、新生物(良性ならびに悪性腫瘍)などであり、また腹痛のおこる機序には、管腔の閉塞、穿孔、臓器の循環障害(虚血)、腹腔内の炎症・出血などが考えられています。


このような現象の原因となる疾患は数多いが、これらを総称して急性腹症という症候群として捕えようとする主な理由は、これらの疾患のなかには早急に正確・迅速な診断を必要とするものが多く、なかには緊急手術が不可欠で、かつその時期を失すると、重症あるいは不幸の転帰をとる例が少なくないためです。

獣医学における概念樹立の必要性



上記の概念に該当する疾患は家畜においても当然みられるものであり、迅速・適切な診断と処置、とくに緊急な開腹手術の適否の判断が家畜の生死の鍵を握っている場合が少なくない。


したがって、家畜の腹部疾患の診断においても、内科、外科を問わず急性腹症という概念を導入し、外科手術の適応に関する適切な判断を第一に行うべきだとする認識が獣医学領域においても次第に昂まりつつあります。


しかしながらここで問題となるのは、人ではもっとも明確な主訴である”腹痛”も、動物では確認しにくい症状の一つだという点です。


動物によっては、腹壁を緊張させ触られるのを嫌がる、怒りやすくなる、背を曲げてじっとしていたりうなったりする、冷たい地面などに腹を押し付けている、馬や牛などの大動物では後肢で腹部を蹴りあげる、などの様子から腹痛を推測して圧痛の存在を確かめることもできますが、一般には難しい場合が少なくない。


一方腹痛は、体性痛、内臓痛、連関通の3種に大別されます。このうち体性痛は病変部に一致する鋭い痛みであり、体動を好まず、壁側腹膜、横隔膜、腸間膜(根)、漿膜(顕著な膨満時)等への直接刺激により発現する。


また、内臓痛は対応部が不明確な深部の鈍痛であり、動物は楽な体位を探すことが多く、管腔臓器の拡張・痙攣等で発現するが、直接刺激では生じないとされています。


なお連関通は、内臓痛を皮膚痛として感ずる痛みであり、横隔膜の病変を肩や頸部の痛みとして、あるいは尿管の痛みを陰嚢の痛みとして感じるなど、いくつかの例が知られています。


いずれにせよ以上の経路により腹痛を発現しうる原疾患を考えてみると、それらは、内臓の異常運動、内臓の循環障害、内臓の炎症・出血、管腔臓器の通過障害、管腔臓器の穿孔等を引き起こす疾患が挙げられる。


そしてこれらの疾患の多くでは、腹痛以外の臨床症状として、重度の嘔吐、下痢、便秘、排尿障害、腹囲膨満などが急激にみられる率が著しく高いことが理解できる。


したがって腹痛症状を明確にとらえることが必ずしも容易ではない動物にあっては、腹痛を伴っていることが十分推定できるこのような諸症状を急激に示す疾患として急性腹症の概念を導入することが、診断・治療上有用と考えられます。


しかしこの場合には、人の場合にも増して、他の類似疾患との鑑別がより重要になることはいうまでもありません。

キジと水鳥 仲田幸男 昭和46年12月20日 ASIN: B000JA2ICE 泰文館 (1971)