急性腹症の範疇に入れられる家畜の主要疾患の種類
a.閉塞を特徴とする疾患:
閉塞性イレウス、機械的イレウス、胎便、胃石(毛球)、寄生虫、胆石
b.変位を特徴とする疾患:
重積、捻転、索状物による絞扼、嵌頓ヘルニア
c.炎症を特徴とする疾患:
膿瘍、癒着、瘢痕拘縮、肉芽腫
d.腫瘍性病変を特徴とする疾患:
臓器内腫瘍、臓器外腫瘍
e.血管病変を特徴とする疾患:
血管炎、動(静)脈瘤、血栓塞栓症等による虚血、便塞、血腫等
f.内腔の変形を特徴とする疾患:
狭窄、拡張、憩室、筋肥大
g.先天性異常による疾患:
メッケル憩室、腸間膜異常、鎖肛、直腸閉鎖
h.破裂および穿孔を特徴とする疾患:
胃破裂、胃潰瘍、寄生虫症、憩室、外傷性内臓破裂、閉塞後の穿孔、梗塞、絞扼、縫合創裂開、吻合不全
i.腹腔外の疾患:
腹膜外の血腫・膿瘍・腫瘍・気腫、内臓(腸)脱出
急性腹症の診断・治療に際しての留意事項
急性腹症の診療にあたって重要な点は、本症をおこす疾患についての基礎知識の十分な習得、該当症例についての迅速な診察と最低必要な臨床検査の実施、患畜の全身状態の正確な把握と適切な治療による悪化の防止、などです。
そして取りあえず出さなければならない結論は、かならずしも疾患名の確定ではなく、(a)緊急手術を必要とするもの、(b)取りあえず経過を観察し、病状悪化に伴い手術するもの、(c)原則的には保存療法で病状を改善させ、待機的に手術を行うもの、(d)手術の対象とならないもの、(e)急性腹症と紛らわしい症状ではあるがこの範疇にははいらぬもの、のいずれであるかを決定することでしょう。
これらの各群に属する家畜の代表的疾患を次に列挙。なお、急激な腹痛を伴う疾患は古くから疝痛として取りあつかわれており、この中には急性腹症に含まれるものが少なくないと考えられます。
しかし疝痛の手術適応などに関しては、その判断に必要な技術的進歩が従来かならずしも十分でなかったこともあって、以下の分類に対応させることは現時点では困難です。
a.緊急手術を必要とするもの:
重度の単純性イレウス(胃腸内異物・癒着・圧迫などによる)、絞扼性イレウス(犬の胃捻転、牛の第四胃右方変位、腸捻転、腸重積)、嵌頓ヘルニア、牛の重度の第一胃食滞、泡沫性鼓脹症、外傷による腹腔内出血(肝・脾の破裂など)および消化管の破裂、消化管穿孔性腹膜炎、膀胱破裂、腸間膜動脈塞栓症、保存療法で改善されない尿路結石(塞栓)症、馬の疝痛(腸重積、腸捻転、腸絞扼、または異物による腸閉塞)。
b.取りあえず経過を観察し、病状の悪化に伴い手術するもの:
初期の単純性イレウス(異物・癒着・圧迫などによる)、腎の外傷性破裂、腎周囲膿傷、牛の創傷性胃横隔膜炎、牛の第四胃左方変位。
c.原則的には保存療法で病状を改善させ、待機的に手術を行うもの:
胃・十二指腸潰瘍の被覆性穿孔、ある種の悪性腫瘍、尿路結石症。
d.手術の対象とならないもの:
一次性腹膜炎、腸間膜リンパ節炎、急性胃腸炎(各種の伝染性胃腸炎を含む)、急性腎盂炎、大部分の急性膵炎。
e.急性腹症と紛らわしい症状ではあるが、この範疇にははいらぬもの:
ある種の肺炎・胸膜炎(ことに真菌性のものでは消化器症状の強い傾向がある)、急性肝炎、急性腎不全(ことに尿毒症)、脊椎疾患(頸椎症・椎間板ヘルニア・変形性脊椎症などで、腹壁の緊張・腹痛などが著明に現れることがある)、神経系疾患(脳脊髄膜炎・脳炎などでの腹痛様症状)。
