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栄養管理(Management of Nutrition) ~ 栄養素が生体の正常な機能を維持するのに不可欠

栄養管理(Management of Nutrition) 輸液法と栄養管理

 
 

栄養の必要性(栄養不足の原因)

 
 
栄養素が生体の正常な機能を維持するのに不可欠であることはいうまでもありません。すなわち栄養素の不足や過剰あるいは栄養素相互間の不均衡によって生体の代謝や生理機能に変化がおこり、さらにこの変化が進めば、ついに特定の病気が発生することは多くの研究によって証明されています。
 
 
また栄養素のうちには、生体内にはいって特定の変化を受けた後、はじめて生理機能を発揮する場合や、一部が体内で合成されて生体の正常な機能を維持していくものがある。
 
 
この場合に生体内の合成などの異常によって特定の代謝病がおこる。さらにある種の環境や疾病においては特別の栄養素の破壊や要求の増大がおこり、たとえ標準量の栄養素が給与されていても、出納が平衡しないため、特定の栄養素欠乏症がおこることがある。
 
 
以上のごとき栄養素の異常は外科病に対しても重要な意義をもつ。すなわち外科病の治療や、外科手術を行う場合においても次のごとく考えられます。
 
 

a

蛋白質(必須アミノ酸)、ビタミン類、無機成分、微量元素あるいはカロリー不足、不均衡などは外科病の発生要因となり、その治癒をおくらせる。

また外科手術に際しては、手術中の危険を増大し、術後の経過を悪化させることがある。

 
 

b

手術侵襲およびその合併症も程度の相違はあるが、患畜の栄養状態を混乱させ経過を悪化させる。また外科病発症時あるいは術前の合併症も栄養状態を混乱させ、その合併症自体も栄養障害が原因となっているものもある。

したがって外科病、手術に際しても、栄養素給与の絶対量の不足、吸収・代謝・合成などの不完全、および環境、疾病および外科的侵襲などによる要求量の増大の点に注目し、十分なる栄養管理が必要です。

 
 

主な栄養素との関係

 
 

蛋白質

蛋白質は生体の細胞の構成成分であって、生体の発育や細胞の正常機能の維持に不可欠です。また血液中の蛋白質は、血液の正常な浸透圧の維持や粘度に関係し、pHの調節に協力し、さらに有機無機の諸成分たとえばある種の脳下垂体ホルモン、ステロイド、甲状腺ホルモンなどのホルモンやヨード、銅、亜鉛、カルシウム、鉄などに結合し、これらの物質の輸送や貯蔵の働きをし、さらに各種の感作に対して生体の防御力を発揮する上に必要です。

したがって蛋白質の欠乏では、これらの作用の異常にもとづく病的状態(低蛋白症、低蛋白血症)が発生する。蛋白欠乏は飼料の蛋白質不足やアミノ酸組成不良、消化吸収の不完全、肝臓における主としてアルブミンの合成不足などによっておこりますが、外科関係では出血、滲出液流出、外科的侵襲の異化作用の亢進などが関係している。

蛋白質欠乏症(含潜在性)は外科病発生の誘因となったり、その治癒が遅延したりする。また抵抗力の低下に伴い感染が発生する。

したがって、外科病の診断にあたっては低蛋白症発生要因が存在しないか、発病の誘因となっていないか、外科病に二次的に低蛋白症が継発していないかなどについて考慮が必要です。

さらに手術にあたってはあらかじめ低蛋白症を処置して予後の回復をすみやかにする方がよい。
 
 
治療法
 
 
低蛋白血症には血漿静注、アミノ酸などの注射、PVP(ポリビニールピロリドン高分子化合物)などの高分子液の輸液、貧血に対しては輸血、造血促進ビタミン(葉酸、V.B12)など、肝機能低下には、各種強肝剤などの処置が必要です。

さらに骨折の治癒や外傷の回復あるいは幼畜の発育に伴う外科病の処置にあたっては、蛋白同化ホルモンを用いると全身の蛋白質の平衡が改善され、回復を促進する。

 
 
b.ビタミン類
 
 
ビタミンは生体内で特定の生理作用を営んでいるから、この欠乏は特定の症状をおこす。また過剰によっても、特異の症状がみられるものもあるといわれています。
 
 
外科学と関係の深いビタミンの主なるものは次のようなものです。
 
 

(ⅰ)ビタミンA(V.A)

 
 
外科学と関係が深い欠乏症は次のようです。
 
 
イ)角膜潰瘍、視紅代謝障害、視神経萎縮などにもとづく視力障害。
 
 
ロ)頭蓋腔や椎体などの形成不全に伴う痙攣・跛行・視力障害などの神経症状(主に脳脊髄液圧の亢進や視神経、脳底、脊髄の圧迫などが原因)。
 
 
ハ)口腔、気管支、肺胞、子宮、腎盂、輸尿管、膀胱などの上皮角化による抵抗力低下のためおこる感染、結石、膿瘍など。
 
 
二)長骨の軟骨の発育停止による発育阻害、骨折時の血腫の吸収や軟骨発育の不全による骨折治癒の遅延、腎臓の曲細尿管・集合管の変性や腎盂上皮の角化などによって誘起される二次的上皮小体機能亢進症に伴っておこる腎性クル病など骨の病変
 
 
ホ)歯槽形成異常による歯牙脱換の遅延、歯列不整、歯根の奇形など。
 
 
へ)新生畜の膵帯炎、関節炎、敗血症などの感染。
 
 
過剰症
 
 
家畜では比較的発生は少ない。急性症では、皮膚発赤・痒覚、嘔吐、慢性症では、骨の破骨細胞活発化と造骨細胞機能低下による骨の脆弱(骨折の原因となることがある)
 
 
VA欠乏症は肉食獣では自然発生はほとんどみられない。牛や羊など草のカロチンをV.Aの前軀体として主に利用するもの、豚・肉牛など肥育を目的とする家畜には欠乏症は発生しやすい。
 
 

(ⅱ)ビタミンD(V.D)

 
 
V.DにはD₁、D₂、D₃、D₄、Dmなど種類が多く、これらは前軀体として吸収され、生体内で変換されたり、生体内にある前軀体から直接合成されて生理作用を発揮する。
 
 
これらの変換には紫外線が必要であり、幼若な動物ではより多くの照射が必要となる。V.Dの生理作用は消化管からのCa、Pの吸収の促進や正常な化骨作用の維持、正常な血清Ca量を維持して神経・筋などの正常な機能を保つことなどです。
 
 
欠乏症状
 
 
イ)長骨の骨幹の基質形成は正常に行われるが、Ca・Pなどの沈着がおこらない。
 
 
ロ)長骨の骨端縫合部(骨端軟骨結合)の軟骨組織の変換がおこらず発育するため、血管の貫通ができず、この部の肥大がおこる。イ)ロ)の結果、四肢の湾曲、骨端肥大、肋軟骨関節部の念珠状結節などが現れる。
 
 
ハ)歯質の不良、歯牙の成長遅延がおこると、歯牙脱換がおくれ、また、う歯ができる。
 
 
二)筋の緊張がなくなり、消化管の運動性も低下する。
 
 
ホ)成長が遅れ元気がなくなる。
 
 
過剰症状
 
 
急性的には嘔吐、食欲低下、痙攣、脱毛、四肢の麻痺、利尿など、慢性的には臓器や血管の石灰沈着などにもとずく循環障害、尿毒症などをおこす。
 
 

(ⅲ)ビタミンK(V.K)

 
 
V.Kは補酵素として酵素の一部をなし、肝臓のプロスロンビン合成をうながすものと思われます。したがって欠乏症では、低プロスロンビン血症のため、出血性素因を示す。
 
 
重症では自発性出血、軽症でも手術後の出血性傾向、分娩に併発する出血死など、出血、貧血を伴うショックをおこすことも少なくない。
 
 

(ⅳ)ビタミンB₁(V.B₁)

 
 
ピロ燐酸エステルとなって生体内でコカルボキシラーゼとして脱炭酸反応に促進的効果を示す。特に糖質の代謝については重要な意味をもっていますが、数多くの生体内の中間代謝に直接、間接に関係が深い。
 
 
牛、羊、山羊、馬などでは消化器内におけるV.B₁の合成が多いので、比較的この欠乏症を自然発生することが少ないが、犬、猫、豚などでV.B₁欠乏飼料が与えられ、さらに大量の糖質が与えられると発生する。
 
 
また給与量、吸収量が正常であっても、V.B₁の要求量の増大や利用性の低下がおこると、二次的に欠乏を起こす。外科手術のときも、これに該当することがあります。
 
 
なお、VB₁をあらかじめ投与すれば、手術時に低下した血圧の回復がすみやかで出血性ショックに有効であり、外傷による一過性の神経麻痺の回復や椎間板ヘルニアなどによる神経圧迫にもとづく諸症状の軽快、消化管のアトニー、過労の回復などに有効な場合もあります。
 
 

(ⅴ)ビタミンB₂(V.B₂)

 
 
リボフラビンとも呼ばれ、生体内の酸化に深い関係をもっている。一般には飼料中に含まれるものと消化管内の合成とから肉食獣、草食獣ともに不足をおこすことは少ないが、抗生剤などを長く経口投与した場合、肝障害の進行した場合などには、欠乏をおこすことがある。
 
 
また欠乏症のない場合でも、この投与によって肝障害の回復促進、アナフィラキシーの予防、解毒機能の増進、過労回復をはかるなど、外科病と関係あるいろいろの目的に用いられて効果を示すときがある。
 
 

(ⅵ)葉酸 folic acid

 
 
犬、豚、猿、狐などの家畜は葉酸を必要としますが、その作用は赤血球芽細胞が赤血球に発育する過程や蛋白質、糖質、脂質の代謝などに重要な意味をもつもので、この欠乏によって家畜は大赤血球性貧血、白血球減少、口内炎、下痢などをおこす。
 
 

(ⅶ)ビタミンB₁₂(V.B₁₂)

 
 
Coを含んだ物質で、核酸の生合成や肝臓の解毒作用に関係するメチル基転位や、アミノ酸、脂質の代謝に関係するなど重要な生理作用を営んでいる。
 
 
鶏などを除き、一般家畜では消化管内合成で十分ですが、もしCoの給与量が少なければ合成障害からV.B₁₂欠乏症をおこす。この傾向は特に反芻獣に強い。
 
 
欠乏症は豚では発育障害、後肢跛行・歩様不確実、貧血など、牛・羊では食欲低下、正赤血球性貧血、削痩などです。また肝機能増進、疲労回復、神経炎や神経痛の軽快などにも有効であった例が知られています。
 
 

(ⅷ)ビタミンC(V.C)

 
 
蛋白代謝、膠原生成、解毒やその他各種の酵素反応に関与するほか、生体内では内分泌においても重要な役割が推定されている。
 
 
しかし一般には生合成が十分で家畜には欠乏症は存在しない。
 
 
しかし犬にはV.Cの合成不全によると思われる骨疾患が時に見られる。
 
 
この場合、変形のはげしくない初期にV.Cを多量に投与すると著効を示す。
 
 

c. 無機類(Na、Kについては輸液などを参照)

 
 

カルシウムとリン

生体の灰分の70%はCaとPが占め、全Caの99%および全Pの80~85%は骨および歯に含まれているので、これらが骨の代謝に深い関係があることは容易に理解される。

したがって、これらの代謝異常と骨折、う歯などの外科病とは密接な関係がある。またCaは血中にあって神経の興奮性を正常に維持し、血液の凝固性に関係します。

Pはさらに高エネルギーP化合物となって生体のほとんどあらゆる代謝に関係するため、この欠乏によって全身性の代謝障害を惹起する。

またCaとPとは相互の吸収や排泄がつねに一定の関連を保っているので、この両者の実量の過不足以外に両者の給与比率もつねに考慮して論じられる。

またこの両者はV.D、副甲状腺ホルモン、腎機能などの適当な働きによって、生体内で正常な平衡が維持されているので、これらのものの異常でもCaやPの代謝は乱される。

肉食動物では肉に含まれるCaとPの比率は1:20にもなり、また草食家畜ではふすまやぬかなどに含まれるPがCaに比しはなはだしく多いため、ややもすれば高P低Ca性食餌となり、骨軟症、クル病などがおこり、二次的副甲状腺機能亢進や線維性骨炎などが誘発される。

このような状態を起こさないための最適のCa:Pの比率は1~1.5です。

 
 

カロリー不足

 
 
飢餓、肥満、蛋白質・糖質・脂質・ビタミン類・無機質などの不足、不均衡によって、生体はカロリー不足、飢餓、肥満などの状態となり、外科病や手術の経過は乱れる。
 
 
すなわち、外科病の治療や手術にあたっては、各種の栄養素の過不足を総合的に判断し対処する必要があります。
 
 

栄養の補給

栄養の補給法には経口栄養と非経口栄養とがある。

 
 

経口栄養(経口投与)

 
 
外科病治療や手術の際の栄養補給は自然採食がもっとも望ましい。
 
 
しかし、種々の原因によって食欲無く、あるいは採食困難・不能の場合も多い。その場合は次の諸方法によらなけらばならない。
 
 
そのような時においても可能なかぎり早期に経口栄養を開始した方がよい。
 
 

非経口栄養

 
 

経管栄養

イ)経鼻的チューブ(カテーテル)栄養および経口的チューブ(カテーテル)栄養:経口栄養が不可能または不十分なとき半ば強制的に行われる。

ただし胃腸に障害がある時は普通行わない。時にはその刺激により食欲が現れることもある。

ロ)胃瘻・腸瘻造設あるいは第一胃穿刺(反芻獣):食道など消化管頭側に異常があって、経鼻あるいは経口的チューブ栄養が不可能な場合に行われる。

反芻獣では第一胃穿刺針より注入することがあり、犬や猫では周咽頭造瘻術が多用される。しかしこれらの経管栄養も、動物では開口器やチューブを長時間留置することが保定・固定が困難なため行いにくい。

その場合は次の経静脈栄養を併用する。

注入液は種々の栄養素を含有した流動状のものを用いる。

 
 

経静脈栄養

 
 
栄養輸液にあたる。種々の原因によって消化管からの吸収による補給が不可能または不十分な場合に行われる。しかしながら、静脈炎を起さずに末梢静脈から注入できる糖質液等の濃度が制限されるため、この方法で水分の過剰投与を避けつつ十分量の栄養を供給することは不可能でした。
 
 
この欠点を補った輸液法が中心静脈内栄養です。中心静脈内に留置したカテーテルから高濃度の栄養液と必要な水分を持続注入することにより、ほぼ完全な非経口的栄養管理が可能となり、消化管外科の飛躍的進歩につながることになりました。
 
 
動物とくに小動物においても、カテーテルの血管内留置技術の改善と普及により、本法による栄養維持が可能となりました。

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