ケシ(Papaver somniferum)の未熟な実に傷をつけ、滲み出る乳汁を集めて乾燥すると阿片(あへん,opium)になる。
阿片には20種以上のアルカロイドが含まれますが、化学構造の基本骨格からフェナントレン系とイソキノリン系に分けられる。
フェナントレン系アルカロイドには強い鎮痛作用があり、その代表的薬物がモルヒネです。
この系のアルカロイドや類似の薬物の多くはヒトに強い依存性を起こすために麻薬に指定されており、麻薬鎮痛薬(narcotic analgesics)ともいいます。
モルヒネ(morphine)
脂質バリア通過性のよい薬物であり、経口投与すれば速やかに吸収されますが、肝での初回通過効果を強く受けつ為に全身循環へ入る率は20%程度です。
皮下注での吸収は速やかであるから通常の投与経路になっている。
組織移行性が良く、肝、腎、筋肉には血中濃度より高い濃度で分布するために分布容が大きい。脳脊髄への分布濃度は低い。
主として肝でグルクロン酸抱合されて尿中に出る。不思議なことにグルクロン酸抱合能のない猫での消失速度(t½=3h)はヒトと同程度です。
家畜での体内動態に関する報告は少ないが、作用時間から類推すると猫より速く消失するらしい。
薬理作用
モルヒネの小用量は殆どの動物種に対して特異的な鎮痛作用を示すらしい。ただし牛などの反芻動物では鎮痛作用が不明確です。
中用量以上の投与による反応には著しい動物種差がある。
一般に犬、兎、モルモット、鶏およびヒトでは中枢抑制的な反応がみられ、猫、豚、綿山羊、牛、馬では中枢興奮的な反応がみられる。
痛覚域値の著しい上昇が起こる。
体性痛・内臓痛・鋭痛・鈍痛のいずれにも有効です。
作用点は中枢神経内の痛覚伝達系のシナプスだと考えられているが、脊髄にある最初のシナプスの感受性が特に高い。
医学領域では末期癌のような持続的で激しい内臓痛に対してモルヒネの小用量を相応レベルの脊髄硬膜外に注入することによって24~48時間の鎮痛効果が得られると報告されている。
中用量を犬に投与すると初期に一過性の中枢興奮が現れ、不安・唾液分泌亢進・嘔吐・排糞などがみられますが、次第に痛覚の鈍麻とともに催眠状態になる。
催眠作用が最も強いのは皮下注射後30分であり、2時間程度持続する。
高用量では痙攣が起こる。他の抑制型動物種での反応も類似します。
猫に中用量を投与すると長い潜伏期の後に狂騒状態になり、数時間にわたって飛び跳ね、突進などの異常行動がみられる。
この狂騒反応はレセルピンで脳内アミンを枯渇させた猫では認められないし、ハロペリドールのようなドパミン拮抗薬によって拮抗される。
他の興奮型動物種での反応も類似するが、馬や牛では個体差が大きい。
犬では呼吸中枢のCO₂感受性が低下し、呼吸が強く抑制される。
咳嗽中枢への抑制も強い。
犬では冠動脈が収縮して冠血流量が低下する。ヒトでは逆に冠血流量が増加するので心臓喘息の治療に用いる論拠になっている。
中枢作用によって犬では収縮し、猫では散大する。
しかし、ヒトにおけるような強度の縮小(pin point pupil)はみられない。
犬猫では投与初期に嘔吐することが多い。延髄のCTZへの作用です。また、犬では投与初期に脱糞が認められますが、その後は便秘状態になる。
腸管平滑筋の自発運動は活発になるが蠕動運動は抑制され、また、腸管内の水分・塩分出納は負(吸収量が分泌量より多い状態)になる。
薬用量では殆ど影響しないが、大用量では尿量を抑制する。
犬では薬用量(2mg/kg(sc)以下)の50倍以上で強度の呼吸抑制と痙攣がみられる。ヒトでは連用によって依存性を生じ、①高度の耐性、②肉体依存性(投薬中断による禁断症状の発現)、③精神的依存(薬物に対する強度の欲求)が認められる。
モルヒネなどの麻薬類の使用には免許が必要です。
犬に対して塩酸塩が鎮静と鎮痛の目的に麻酔前投与薬または術後投与薬として用いられる。
その他のフェナントレン系あへんアルカロイド
コデイン(codeine,麻薬)
延髄の咳嗽中枢への抑制作用が強いので鎮咳薬として用いる。
ジアセチルモルヒネ(diacetylmorphine,ヘロイン heroin, 麻薬)
半合成品で作用はモルヒネに類似し、鎮痛作用はその倍。モルヒネより依存性を生じやすく、医薬品には用いられない。
エトルフィン(etorphine, 麻薬)
半合成品。M99の略称で知られ、単独または神経弛緩薬との配合剤が各種野生動物の不動化薬や麻酔薬として欧米やアフリカで使用されている。
強力な拮抗薬(diprenorphine)が用意されていることも人気の理由です。
